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□あくまでラブコメしませんか
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「おい、小娘!」

「小娘じゃなくて苗字 名前という立派な名前があるんですけど〜!」

「チッ……名前。」

「どうしました?夜行掃除人。」

「明日は非番だろ?」

「そうですけど。」

「どうせ汚い部屋でごろごろして過ごすんだろう、暇ならちょっと付き合え。」

「汚くないですし、暇でもないんですけど。」

「上司の命令だ。」

「えぇー!久しぶりの連休なのに!」


ふてぶてしい表情で私の前に高圧的に佇む髭のおじ様……夜行 丈一さんはしぶしぶ頷いた私を見下ろすと、満足そうに「最初から素直に聞けば良いんだ。」そう言って映画やドラマに出てくるなら、確実に悪役が浮かべるであろう種類の笑顔を見せた。


「……で、付き合うってどこにですか?お屋形様のお遊びですか?」

「別にお屋形様の件ではない。俺も非番だからな。」


一瞬何を言っているのかわからなくて目を丸くした私の頭を軽く叩いた夜行掃除人は、本日2回目の舌打ちをして呆れたように口を開いた。


「お前にあまりにも色気がないから、ちょっとは良いところにメシでも連れてってやろうと思ってだな……」


さっき叩かれた頭を押さえて乱れてもいない髪を整えながら、今度は開いた口が塞がらない。そんな私を小馬鹿にした顔をして見下ろしている彼に恐る恐る質問してみた。


「夜行掃除人、もしかして……それってデートのお誘いですか?」

「はっ!勘違いするな、俺はお前のような色気の無い女は好みじゃない。強いて言うなら、普段文句を言いながらも弱音を吐かない小娘への褒美だ。」

「小娘じゃなくて……」

「名前。」


真面目な顔をして名前を呼ばれて、跳ね上がった心臓の音に気付かぬ振りで笑顔を作った。


「行くのか?行かないのか?」

「行きます〜!」

「じゃあ、明日夕方7時に迎えに行く。いつもの所で待ってろ。あ、くれぐれもスーツなんかで来るなよ。」


捲し立てるように早口でそれだけ言って、私の返事を待たずに背を向けて歩き出した夜行掃除人の姿が見えなくなってから、ふふふと笑いを漏らす。


「デートって思っていいですよね。」






夜遅くまでかかって選んだワンピースを着て、普段は纏めた髪を下ろして軽く巻き、最大級にお洒落した私は、待ち合わせ場所で何度も何度もお店のガラスに映る自分の姿を確認した。


随分早く着いてしまったと辺りをぐるりと見渡して、近くのカップル達をそっと見守る。私も今日はあのカップルのように良い雰囲気になるかもしれない……そう想像してにやける口元を引き締めていると、名前を呼ばれた。


「名前、随分早いな。」


振り返った先にいた丈一さんは頭をかきながら私に近付いてきて「待たせたか?」そう呟き私の顔を覗き込む。


「いえ、早く来てしまって……そんなに待ってません。」

「そうか、車が向こうなんだ、悪いが少し歩いてもらえるか?」

「はい、全然大丈夫です。そういえば、私服姿の夜行掃除人って初めてですね、かっこいいです。」

「そうだな、俺も初めてだな、名前の私服。」

「すぐわかりました?」

「この辺りに立っている女の中で1番いい女に近づいていったらお前だった。」


返す言葉が見つからず口をぱくぱくさせていると「なんてのは冗談だ、さっさとしろノロマ。」そう言ってスタスタと先に歩き出してしまった彼へと走り寄って腕を絡めてみる。



「振り払わないんですねー!」

「馬鹿じゃないのか。」


彼の車が遠くに止まっている事を願いながら、カップルだらけの道を歩いた。





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