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□声が優しいのはずるいと思います
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下端の私に、立会人から声が掛かるなんて彼の気紛れであったとしても二度とないかもしれない。ましてや入社してから焦がれに焦がれた相手となれば、軽い女だと思われる恐怖よりも一夜の相手に選ばれたことすら幸福に思えた。


行為を行う事だけが目的のホテルに連れて行かれるのかと思っていたが、彼が車を滑り込ませたのは高級と呼ぶに相応しい外資系の宿泊ホテルで、まるでお伽噺のお姫様になったかのようなエスコートで豪華な部屋のソファーに座っている私は夢でも見ているのだろうか。


彼のこだわりなのだろう、裾の長いスーツを無造作に私が座るソファーの向かいに放り投げるのを見届けて、隣に座った気配に身体を強張らせる。


「緊張しとる?……こっち来て。」


クスクス笑う門倉立会人にそっと手を引かれて向かい合うように彼の膝の上に座らされ、顎を掬われる。きっと私の顔は真っ赤だ……涙に霞む視界で彼が顔を近付けて来たのがボンヤリ見えて、きつく目を閉じた。


「やっと手に入れたというのに、そんなに怖がられては私も……手を出しにくい。」


「やっと?」


「失敬!此方の話です。」


降ってくると思っていたキスがなかなか訪れずに、うっすら目を開ける。これでもかというくらい近くに門倉立会人の顔があって、彼が言葉を紡ぐ度に擦れるお互いの唇に意識が集中してしまう。


「キス……してもええ?」


「……っ!」


私が目を閉じたのを合図にやっと唇が重なった。初めは優しく離れたりくっついたりを繰り返していたが、だんだんと深くなるそれに苦しくなって身体を反らせば、逃がさないとばかりに後頭部に回された大きな手に引き寄せられる。


キスに夢中になる余り、髪に彼の長い指が絡められてはじめてアップにしていた髪を解かれたことに気が付いた。そっと掌で撫でながら、髪から首筋、鎖骨へと落とされる彼の唇。


そしてシャツのボタンに指を掛けられたとき、震える声で待ってと自らの手を彼のに重ねた。


「先に……シャワーをっ、んっ……!」


「後でええ。」


絞り出した懇願は聞き入れて貰えず、また深い口付けが落とされる。いよいよ下着姿にされて、そこで少し身体を離してまじまじと見つめてくる門倉立会人に涙の滲んだ瞳で抗議の意を向けた。


「うん……色っぽいね、そそるわ。」


「恥ずかしっ……。」


これ以上見ないでと彼にしがみついて、自分からキスをねだって熱い舌を絡める。


唇を合わせたままベッドへ運ばれてゆっくりと柔らかいそこへ降ろされる。見上げた先では門倉立会人が見慣れない天井をバックにネクタイを弛めるところだった。


噎せ返る程の色気に目を反らすとクスクス笑う声が聞こえてきて、軽くキスされた後、胸の形を確かめるようにやわやわと揉まれてもどかしさに身を捩る。


「……腰、動いとるよ。」


楽しそうに此方を見つめる彼が、胸へと吸い付いてくる。待ち望んだ刺激に声を上げると同時に下腹部に伸びてきた手を咄嗟に掴んだ。


「待って、暗くしてください。」


意外にもすんなり明かりを消してくれて安堵していると、彼の指が敏感な部分を探り当てて焦らすようにゆっくり触れてくる。


はしたない声を響かせないよう唇を噛む私の耳元で「もっと聞かせろ。」そう囁く声と熱く吐かれた吐息に、身体の奥は疼くばかりで。


もう恥ずかしさも、もどかしさも、限界に達しようとしていた頃にそっと抱き起こされて今日した中で1番優しく口付けられた。


キスの合間に手を握られて、「付けてくれるか。」と渡された避妊具に少し驚く。避妊してくれるんだとボンヤリ考えながら、興奮を主張する彼自身にそっと指を這わせる。


「……っ!触ったりせんでええよ。」


初めて聞く余裕の無さそうな声に、立場が逆転した気分になった私は這わせた指に唇を近付けて、そこにそっと口付け彼を見上げた。


「はっ!……付けるだけでええから。」


眉を寄せるその顔と私の頭を撫でる掌に、ゾクゾクしたものが身体を駆け巡る。もっと感じてほしくて舌を這わせたところで、強引に抱き上げられ押し倒される。


「随分と勝手なことをしてくれましたね。」


「門倉立会人にも感じてほしくて。」


「……雄大。」


「ゆうだっ!……あっ!」


名前を呼ぶように促しておいて、言い終える前に彼が私を貫いた。声にならない声を上げる私に向かって、「名前、名前……。」と繰り返す彼の大きな背中にそっと腕を回して、呼べなかった彼の名前を心の中で呟く。


後で名前を呼んで好きだと伝えようと今ばかりは与えられる快感に身を任せることにした。




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