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□反則も悪くないなと思いました
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「ね、お願い。」
私の目の前で手を合わせているのは貘さんだ。下がった眉に、俯きがちに伏せられた瞳が、困ってますと体現していた。最も、彼の場合、それが演技なのか本気なのか見抜くのは私なんかには到底無理。
「……明日は、友達と久しぶりにご飯に行く約束してるし。来週じゃだめ?」
「そこを何とか!」
「ん〜。」
さっきから同じやり取りを繰り返している。貘さんの頼みは、明日の夜に会いたいってこと。のろけだと言われたらそれまでだけど、彼は時間の許す限り私といたいらしい……恋人に会いたいと言われるのは素直に嬉しい。だけど、時々は自分の予定というものだってある。
今回ばかりは、友人を優先しないと……もうすでに貘さんの為に彼女に予定をずらしてもらったことが思い出すだけでも数回はある。
渋る私を見て、貘さんは閃いた顔をしてから徐に近づいてきた。
「ジャンケンで決めない?」
「……貘さん弱いじゃん。私はいいけど。」
俺は勝つよ!そう張り切る貘さんを見て、彼が納得するならそれでいいかと頷いた。
「ジャーンケーン…………ポンッ!」
「もう1回!今のは練習だよ!何回勝負とか言ってなかったしね!」
「賭朗呼ぶ?」
「ズルなんかしてないよ!」
案の定負けた貘さんは、もう1回とごね出した。ごね出すと長い……これに付き合ってたらきっと、貘さんが勝つまでジャンケンに付き合わされることになるので、断ろうとしたときに抱き締められた。
「……ね、名前ちゃん。たとえ5分だっていいんだ。会えるときは会いたい。」
「バカじゃないの。何年付き合ってると思ってんの?」
「照れたっしょ?」
「早く!ジャンケン……」
慌てて出したパーの手は、貘さんの顔を見る限り負けているみたい。ちらりと確認した先ではやっぱり貘さんがチョキの形にした手を動かしていた。
満面の笑みを浮かべた貘さんは、「明日連絡くれたら迎えに行くよ。」そう言って私のおでこにキスをしてポケットからカリ梅を取り出している。
「名前ちゃんって追い込まれたらパー出すんだよ、知ってた?」
「……やっぱりズルじゃん。」
そんなことないよって笑った貘さんの事を引き寄せて、自分から彼にキスをして「明日はここから仕事行こうかな。」そう言ったら、彼は子供みたいに喜んだ。
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