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□正直こういう展開を待ってました
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別に……取り立てて騒ぎ立てる事でもないじゃない。一人そう呟いて、たった今まで粛清対象だったモノを見た。


そう、ほんの数秒前まで酸素を肺に取り入れて、二酸化炭素を吐き出していた筈の人間。それを自分の手で動かぬ塊に変えた事に特別な感情なんて抱かない。そう自分に言い聞かせて、着崩れたスーツを正す。


頬を赤く彩った生臭い液体をハンカチで拭き取った後で、シャツの襟元にも赤が飛んでいるのを見て眉を寄せた。


「シャツ、汚れちゃった。」


着替えを持ってくれば良かったと小さく溜息を溢して薄暗い建物から出て大通りを目指す。お気に入りのストールで肌寒さを凌ぐ振りをして返り血を隠しながら。


人通りなんて無いような路地で、深夜にも関わらず此方へ近づく足音に神経を集中させていると聞こえた笑い声に身体の力を抜いて振り返った。


「……夜行掃除人。」

「ご苦労だったな苗字。面倒な仕事を頼んで悪かった。」

「いいえ、大したことなかったですよ。」

「そうか……。」


夜行掃除人に別件から手が離せないと頼まれた仕事だったのに、その彼が現れて不思議に思うも、労いの言葉を掛けられたので礼を口にする。


いつまでも立ち去ろうとしない夜行掃除人をまじまじと見つめていると、小さく咳払いした彼が決まり悪そうに目を逸らしながら呟いた。


「その、お前は人を殺すのが苦手だろう?……大丈夫か?」

「大丈夫です。」


掃除人の癖に人を殺すのが苦手だなんて、そんな事知られたら真っ先に激怒しそうな彼に気遣われた事に驚き瞬きを繰り返す。


「いや、無理はするなよ。」

「お気遣いありがとうございます。」

「その、なんだ……気分転換に明日、メシでも連れてってやろうか。」

「え?」

「……嫌ならいいが。」


目を逸らすどころか俯き加減で頭を掻いている彼を見たとき、忘れかけていたときめきが私の胸に舞い降りてきた。


「そんな優しいこと言ってると期待されますよ?」

「……お前にならされてもいいぞ。」

「お言葉に甘えて。」


自分よりも随分年上の、しかも怖くて仕方なかった上司にときめくなんて、悪くないかもしれない。



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