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□きゅんって音がするらしいです
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ありえない!本当に、どれくらいありえないかってお屋形様がそこらへんのギャンブラーに負けちゃうってくらい、ありえない。


そもそも弥鱈立会人が私のことを好きだなんて噂だって本当かどうかもわからないのに、クイーンとその取り巻きの女の子達ったら、人の色恋沙汰が面白いのか、あることないこと騒ぎ立てて去っていった。


彼女達が去って、静かになった廊下を歩きながら先程の話を思い出す。


私は掃除人だし、普段立会人と関わることもほとんど無いのだけど本部内ですれ違ったら挨拶くらいはする。


思い返せば……確かに最近、弥鱈立会人とはよく遭遇していたし、何かと理由をつけて缶コーヒーだったり、お菓子を貰ったりしていた。


その様子を見られていたらしく、他人事だからって面白おかしく吹聴してまわった誰かのお陰で、弥鱈立会人が私のことを好きだとか、二人は付き合いだしたらしいとか、随分話のネタにされていたみたいで。


でも、一言、これだけは言っておきたい。


私は姿勢の悪い男が嫌いだ。あの猫背だけは本当に駄目。もう、何て言うか……ありえない。だからはっきり言って噂でさえも許せない。


そんな怒りを胸にしまいこんで。業務報告のため、上司である丈一さんのところへ向かう途中、調度その彼に呼び止められた。


「良いところに……名前、随分と機嫌が悪そうだな。その怒りのパワーでこれ運んどけ。掃除人の控え室な。」


私が返事をする前に押し付けられた荷物を咄嗟に受け取ってしまい、文句を言おうと口を開いたときには丈一さんは私に背を向けて歩いていた。


「女の子に荷物運ばせるなんて!あのおじい……しかも今来た方と反対方向だし。」


聞こえないよう悪口を言って、大きな荷物を抱えて振り替えると誰かにぶつかった。


「きゃっ!ごめんなさい。」


「いえ、大丈夫ですかぁ〜?」


この声は。固まる私を余所に、今会いたくない相手No.1の弥鱈立会人は何かぶつぶつ呟いて、私の手から軽々と荷物を奪った。


「いくら掃除人とはいえ、こんな大きな荷物……女性の貴女には大変でしょう。お運びします。」


「あ、ありがとう、ございます。」


「お安いご用ですよ、苗字掃除人、貴女の為なら。で、どちらまで?」


「……掃除人の控え室です。」


わかりましたと少し笑った弥鱈立会人は、私の数歩前を大きな荷物を持って歩く。


なんか、その後ろ姿が……ありえなくはなかった。むしろ、好きかもしれない。




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