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□好きかも、しれない
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さっきから後ろでうるさい貘さんは放っておいて、伽羅さんが荷物持ちについてきてくれたセールでの戦利品を並べてコーディネートしては着てみる、というプチファッションショーをしていた。
貘さん達と一緒に生活をしているため、1人で出歩くと彼に負けたギャンブラーの腹いせに危ない目に遭うかもしれないからと買い物に行ける機会は限られていた。
滞在ホテル近くのデパートのセールと貘さんが買い物連れてってあげてよと伽羅さんに頼んでくれたタイミングが同じだったこともあり、ここぞとばかりに服を選んだ私は、中々の成果に上機嫌になっていた。
気が付くと、私に構ってもらうことを諦めたのか静かになった貘さんが、沢山の服の中から1枚のワンピースを取り出して差し出してきた。
「これ。これが名前ちゃんに1番似合うと思うんだよね、着てみてよ。」
唯一値引きされてなくて私の中では高価だったけど、どうしても気に入って買ったそれを迷わず選んだ貘さんに少し驚いた。ただ……そのワンピースが1番似合うと言われてやっぱり買ってよかったと嬉しくなり、素直に着てみる。
「どうですか?」
「うん。やっぱりいいね、似合ってる。かわいい。」
珍しく真剣な眼差しで見つめてくるので、急に恥ずかしくなって目を逸らした。視界の端でクスクス笑う貘さんはこっちに来いと手招きしている。
「せっかくだからこれも、買ったんでしょ?塗ったげるよ。」
側に寄ると痛くない程度に髪を引かれて、近付いた顔に向けられた口紅。何時もは挑戦しない少し大人びた赤いそれをちょん、と唇に当ててきた貘さん。彼の視線が私の唇に向けられていることにまた恥ずかしくなって、顔を背けた。
「自分で塗ってきます!」
「えぇ!何でよ、塗ったげるって言ってんのに、名前ちゃ〜ん!」
なんだかいつもの貘さんと違ってドキドキしてしまっている胸を落ち着かせて、さっき彼から奪ったルージュを唇に乗せた。
「名前姉ちゃん、とってもキレイ!」
「マー君ありがと。ケーキ買ってあげるから一緒に出掛けよっか。」
貘さんの方を振り返る勇気が出なくて、隣で覗き込んでいたマー君に声を掛けた。
「何でってば!名前ちゃん、俺の為にお洒落してくれたんでしょ〜!デートしようよ!」
「名前姉ちゃんはマルコを誘ったのよ!貘兄ちゃんはお留守番よ!」
ケーキにつられて珍しく貘さんに歯向かうマー君が私の横に立つ。
「貘さんと二人だと危ないんでしょ?ねっ!マー君行こう!」
肩に腕を回してくる貘さんから逃げるようにマー君の手を取り歩き出す。
「俺だって北斗神拳継承してるんだからねぇ!名前ちゃんってば、酷い!せめて一緒に連れてってよ!」
急に貘さんのこと意識したなんて言えなくて、相変わらず騒ぐ彼と隣でケーキケーキとはしゃぐマー君を交互に見て、これからどうやって貘さんに接したらいいのかそればかり考えた。
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