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□隣同士がいちばん自然
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目の前に姿勢良く立つ彼女にいつものように声を掛けてみても、返ってくるのは聞きなれた言葉。


「ねえ、どうせまだまだかかるから名前もここに座ったら?」


自分が座るソファーの隣をトントンと叩く。


「いいえ、お屋形様。せっかくのお誘いですが仕事中ですので。」


大袈裟に肩を竦めて笑う彼女に此方も真似するよう肩を竦めて見せて手元の資料に目を通していく。暫く無言の時間が続き、やっと僕が仕事を始めたと少し気を抜いているらしく雰囲気が柔らかくなった彼女へ話し掛けた。


「二人きりの時くらい恋人らしくしてくれてもいいじゃないか。 」


寂しいよ。最後に小さく付け足して反応を待っていると彼女が腕を動かす気配がしたので首をかしげてそちらを見遣る。


ふうと溜息を溢した彼女が腕を動かしたのは時間を確認するためだったらしい、腕時計を弄りながら此方へ数歩近付いてきて、先程僕が叩いた場所へ遠慮がちに腰掛けた。


「もう、随分お仕事に励まれたので。少し休憩ですね。」


トンと肩に頭を預けてきた彼女は恥ずかしそうに笑っていた。微かに甘い香りのするその髪を撫でて、滑らかな感触に酔いながら思いついたわがままに我ながら子供だなと苦笑する。


「これじゃあどっちの休憩だかわからないよ。だから、ね、キスして。名前から。」


戸惑い照れる素振りを見せながらも恐る恐る顔を近づけてきた彼女の腰に素早く腕を回して捕まえると驚いた顔をした彼女にキスをした。


「私からって言ってたじゃないですか。びっくりしました。」


「名前がなかなか隣に座ってくれないし、焦らすから悪いんだよ。」


いい加減敬語はやめてくれないかと囁きながら、何度か啄むようにキスすると首へ回される腕に気付いて口角が上がる。


「これからは、お屋形様付きの掃除人じゃなくて僕の恋人兼婚約者として一緒に行動するんだよ。」


「え……?」


「もう父には名前のことは言ってあるし、あとは君の気持ち次第だよ。」


固まり口をパクパクさせる彼女に返事は?と聞くと、相変わらずの敬語で返してくるので再び苦笑した。


「だから名前は敬語もやめて、僕の隣にいることにも慣れてもらわないと。」


「……努力する。」


きっとまだまだ慣れないだろうけど、いつかお互い当たり前になったらその時は……想像だけに留めて彼女にだらしなく緩む表情を見られないように抱き締めると、その肩に顔を預けた。





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