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□とばっちりはごめんですから
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緊迫したギャンブルの後、勝ちの余韻に浸っていた梶の耳に届いた思わぬ言葉に、問いかけられた梶だけでなく同席していた斑目も意表を突かれた顔をして名前を見つめた。


「え?急にどうしたの?名前ちゃん?俺の空耳かな?」


「貘さん!僕が苗字さんに頼まれたんですから!……ね?苗字さん?」


そんな二人の慌てようをモノともせず、そもそもの原因である言葉をもう一度発する名前。


「ですから、梶様。1度私とデートしていただけませんか?」


「空耳じゃなかった、どうして梶ちゃんなの、俺じゃないの。」


虚ろな表情で何度も繰り返す斑目と顔を真っ赤にさせて掌を彼女へ向けて無意味に振る梶にしゅんと眉を下げて見せた名前は直ぐに何時もの凛とした佇まいを取り戻して踵を返した。


「…駄目なら他を当たります。今の失礼な発言はお忘れ下さい。」


「駄目ってわけじゃ……!あの、理由を!そう!急に言われても、ただそれだけっす。苗字さんなら…むしろ喜んで!デートしたいです!」


鼻息荒く彼女の両手を包み込み詰め寄る梶を押し退けるようにして距離を取った名前はさも当然という顔をして言った。


梶にしてみれば、女からデートに誘われそれが中々にいい女であるから気分も上がる。ここに自分を想っているだなんて告白が加われば上がる気分もさらにスピードを増すだろう。


「…私事で恐縮なのですが、何分こんな身分で御座いまして。それゆえに"普通のデート"と言うものがわからないのです…。そこで梶様にご指導ご鞭撻を頂こうと……」


「そゆこと、ね。それなら梶ちゃんなんかより俺のがよっぽど適役なんじゃない?」


ぶつぶつと呟き暗い影を背負っていた斑目が途端に明るい表情を取り戻して彼女の手を取ったが、いいえと首を振る。


「斑目様では"普通"を体感出来ません。梶様こそ適任なのです。」


内容は失礼にも関わらず、熱心に見つめられ勘違いした梶はキラリと目を輝かせてお任せくださいと斑目が掴んでいた彼女の手を自分の方へ引き寄せ甲に軽く口付けた。


諦めかけていたところに了承の返事を貰えて、喜びを表に出した名前が何度目かの立ち会い中でも見たことの無い笑顔を浮かべたので梶は都合よく解釈する。


好きとは言われなかったけど、これから良い関係になれることは間違いないし、まずはデートだ!男の見せ所だなとだらしのない顔をして、気持ち悪いと斑目に頬を摘ままれる。


「…では、決まりですね。本番に役に立つようしっかりご指導お願いします、梶様。」


ペコリと頭を下げる名前と立ち尽くす梶。梶の代わりに斑目が口を開いた。


「名前ちゃん?今、本番って言わなかった?どゆこと?」


「…申し上げませんでしたっけ?私達はそういう事に不慣れなのでと。」


頭上に疑問符を幾つも付けた様子の名前が梶と斑目を交互に見遣る。


「…彼氏、いたんすね苗字さん。ちなみにそれって……僕達の知ってる人っすか?」


弐號の〜と答えを聞いた梶に土下座して断られた名前は納得いかない顔をしながら帰っていった。


「残念だったね、梶ちゃん。」


「どうせ僕はこんな立ち位置ですよ。」


笑う男と不貞腐れる男をその場に残して。




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