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□うまく育てると愛に進化するらしい
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何度も名前ちゃんに来てもらえるよう賭朗に要請していると、見かねた夜行さんが百鬼夜行でなら話す場を設けましょうと提案してくれてそれに飛び付いた。


隣の席でケーキを頬張るマー君と、何故か緊張している梶ちゃんを横目に見ていると向かいに座った名前ちゃんが口を開いた。


「貘様、どうして何度も私を指名されるのです?」


「…こないだの取り立てがまだだからだよ。」


手元で湯気を立てている珈琲にミルクを入れてかき混ぜていると何処からか鋭い視線を感じたが…。気にしないようにし、彼女の返事をじっと待つ。


「…特に思い付くものも無いのですが。」


「そんな事、立会人が言うんだ?賭けの代償はきちんと取り立ててくれないと!」


立会人である彼女のプライドを揺さぶろうと口にした言葉に思うことがあったのか、あの時の挑発的な笑顔を思い出させる顔を少し覗かせて落ち着いた声を響かせる。


「では、貴方が私にやけに関わろうとする理由をお聞かせ下さい。」


何と返せば彼女が興味を示してくれるのか……そんな計算を繰り返しても答えなんて見えて来なくて。男は度胸だと勝算も何も無い勝負に出ることにした。


「名前ちゃんのことが好きになっちゃったからだよ。」


梶ちゃんが珈琲をぐぴっと飲む音と、先程から浴びせられる鋭い視線の主がいるであろう方向から噎せるような音が聞こえたけれど、それらを一切意識の外に追いやって彼女を一心にみつめる。


「…大して私の事を知らないのに?」


「知らないから、知りたいと思ってるよ。」


「知ったところで…良いものとは限りませんよ?」


「どんな名前ちゃんでも知られるだけでいいんだ、受け入れられる。自信がある。」


「何を根拠に………」


呆れ顔の彼女の言葉に被せるように続ける。


「根拠なんて説明出来ないけどさ。断るときっと後悔するよ?俺の手を取ってくれれば……悪いようにはしない。」


「随分な口説き文句ですね。」


「これでも人生で初めてなんだ、こんなに必死に女の子を口説くの。」


ははっと笑って頭を掻くと、何かを量っているのか、それとも単に覗いただけなのか下から見上げてくる笑顔にドキッとした。


「私は好きだとか恋だとかそんなものは信じておりません。ただ、こんなに真っ直ぐ好きだと言われて喜ぶ自分がいます。私も貘様の事を好きだと言える日がくるでしょうか。」


「…言わせてみせるよ。」


「愛してくださいますか?」


「それは確実に約束できるよ。」


恥ずかしさに目を反らすことも出来ずに冷めてしまった珈琲を飲み干した。美味しく感じるなんて今の会話全部夢じゃないよね、そんな心配がもやもやと頭を支配しかけていると夜行さんがお代わりを注ぎに来たのでカップを差し出す。


「…貘様、私の娘に何かあったら、わかっていますね?」


笑顔で並々と珈琲を注ぐ彼に、夢じゃないよねと呟く。注がれた珈琲はやっぱり、美味しかったのかな。もうわからない。



名前ちゃんが夜行さん心配しないでと笑うのをまだ夢見心地で眺めた。



うまく育てると愛に進化するらしい



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