22Kiss
□爪先…崇拝
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彼の滞在先のホテルに一緒に住みだして、自分の部屋よりも随分豪華な内装に少しずつ慣れてきた頃。いつも通り一番にお風呂を済ませた私は先日購入したボディクリームをせっせと身体に塗りながらマッサージしていた。
マルコと梶さんのやり取りをBGMに、良い香りに癒される。上半身は粗方塗り終わり、次は脚だとズボンを太股まで引っ張り上げていると肩に掛かる重みと頬に当たる柔らかい髪の感触。
「名前ちゃん、何してんの?」
クスクス笑いながら聞いてくる彼に、少し警戒しつつ答える。
「…貘さん。お風呂上がりに乾燥しちゃうから、ボディクリーム塗ってたんです。」
「ふぅん…良い匂いだね。もう塗り終わったの?」
「あとは脚だけです。」
その言葉を聞いて、一瞬嬉しそうな顔をした彼はクリームを少し指に取り香りを確かめるように鼻先につけながら此方を見て質問を続けた。
「背中は?自分で塗れないでしょ?」
「背中は塗ってないけど、いいんです。」
「やったげるよ。背中も…脚も、ね?」
妖しい空気を漂わせながら顔を覗き込まれて返事に困っていると、あれ?やらしいこと考えちゃった?なんて言ってくる彼を睨み付ける。
「…えっちなことしない?」
「してほしいの?」
「してほしくないから聞いてるんです。」
「……嘘つき。」
向こう行こうよとベッドルームへと手を引く彼に大人しくついていくと、うつ伏せになってと言われ想像以上に真面目にボディクリームを塗られてマッサージされ拍子抜けしてしまう。
心地よくなってきてうとうとしていたらしく、急に聞こえた大声に慌てて返事をする。
「…ちゃん!名前ちゃん!起きてる?終わったよ、あとは脚の前側だけ。さ、上向いて。」
脱いでいた服を手繰り寄せて彼に身体が見えないように素早く着ると仰向けになって脚を差し出す。
「よく寝てたね。そんなに良かった?」
「なんか、貘さんが言うといやらしい。」
「やだなぁ、そんな意味じゃないのに。それともやっぱり期待してた?」
クスクス楽しそうに笑う彼を見て、きっとまた彼のペースに乗せられているんだろうなと思いながら脚のマッサージを受けていると、今まで下を向いていた彼と目が合い息が止まりそうになった。
驚くほど綺麗に微笑む彼と目があったままで、左足に添えられていた少し冷たい手が滑るように足先まで撫でてゆく。恥ずかしいのに目が離せなくて、声にならないこえで、貘さんと呼び掛ける。
不意に目が逸らされて、爪先に唇を寄せる彼にまた驚く。ちゅ…とかわいい音を立てて離れていく形の良い唇から紡がれる言葉に首をかしげた。
「…名前ちゃん。さっきの話だけどさ、名前ちゃんはそのままでいてね。」
「さっきの話って…寝てたから聞いてません。わざとでしょ。」
「そ、ならそれでいいよ!とにかくそののままの名前ちゃんが好きだってこと!」
何の話か教えて欲しかったけれど、貘さんが楽しそうに笑っているならいいかと再び襲ってくる睡魔に身を任せることにした。
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