22Kiss

□脛…服従
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実在しない事実についての証明はどうやったら出来るのだろうか。そんなことをやった人間は存在しないのではといい加減面倒になってきた弥鱈は、いつもの気だるげな表情を更に深いものにさせて溜息の代わりに舌先を口から伸ばし気泡を飛ばす。


それでもこの場を去らないのは弥鱈にとってこの事実を証明したい気持ちとそんなことで心を煩わせる名前を愛しく思うからだった。


「本当に私はパンしゃぶなどには行ってませんよ、名前さん。」



弥鱈宅のソファーに座り、膝を抱えた状態でじっとりと此方を睨み付けてくる姿さえ可愛いと思ってしまうのは惚れた弱味だろうか。



「…嘘喰いが何回も"ちゃんみだ〜!パンしゃぶね!"みたいなこと言ってたもん。」


「ですから、あれは彼の、何と言うかああ言って周囲のペースを巻き込む作戦のようなものですよ。いつものことです。それに、実際のところどれが本気でどれが冗談なのかも腹立たしいことに掴めません。」


「…でもちょっと想像したでしょ?パンしゃぶ、行ってみたいなってなったでしょ?」


今度こそ溜息を吐き出して、ソファーに座る名前の前の床に膝をつき彼女の顔を覗き込んだ。


膝を抱えた両腕の間に顔を埋めてしまって表情はわからないが、たぶん弥鱈が本当は"パンしゃぶ"に行ってないのはわかっているのだろう、ごねているだけで引き際がわからなくなったのであろう名前に


「…名前さん、私はそんなもの興味もなければ誘われた所で好奇心を擽られることもありません。」


彼女の脚を軽く引っ張りその脛に口付けた。少し身体を揺らした彼女にあと一押しだと内心微笑む。


「私の興味をそそるのも、私を跪かせるのも貴女だけですよ…名前さん。」


機嫌を治した彼女に今度は此方が拗ねてみせようか、と甘える口実を見つけて上がる口角に気付いて先程とは違う意味合いを含んだ溜息を気泡に乗せて空に放った。



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