22Kiss

□腰…束縛
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最近、嘘喰いから指名され勝負に立ち会うことが増えてきた。彼の勝負には魅せられるものを感じるし、何かと噂のギャンブラーの手腕を間近で見られるので役得だと今日も立ち会いに向かった。


張り切って立ち会った割りには期待していたような勝負は見られず、呆気なく嘘喰いが勝利し残す業務は掛け金の確認と後片付けのみ。掛け金を数えていると後ろから聞こえてくる声に思わず振り向きそうになる。


「ねえ、名前ちゃん。最近俺が夜行さんじゃなくって君のこと指名してるの気付いてた?」


「…さあ、気付いておりませんでした。それと斑目様、些か馴れ馴れしいのでは?」


本当は気付いていたのだけど、その意味を知ったところで何かが変わる訳でもないし、名前で呼ばれるのも何だか嘘喰いサイドに立っているようで気に入らなかったので文句の言葉を口にした。


「やだなぁ、冷たいね。名前ちゃんと親しくなりたいのよ、俺は。」


顔を見ていなくても笑っているとわかる声の調子で彼は続けた。


「ねえ、彼氏とかいるの?」

「お答えする義務はございません。」


そう言って残りの業務を再開する。後ろで大袈裟に溜息を吐くのが聞こえてきたが無視していると、また話しかけられた。


「俺と付き合ってほしいんだけど。」


その言葉に今度こそ嘘喰いの方を振り返り彼と目を合わせる。


「お断りさせて頂きます…それから、こちら掛け金です。お確かめ下さい。」


はっきりと断りの言葉を口にし数え終わった掛け金を手渡そうとした………のだが、その手を掴まれ彼の方に引っ張られる。突然のことに驚いて固まる私。


「ね、何で振り払わないの?名前ちゃんなら出来たでしょ?」


ギャンブルの途中で見せる妖しい笑顔で覗き込まれ、質問されて困っていると、今度はクスクスと声に出して笑いながら話し出す嘘喰い。


「賭けしようよ。俺の手を名前ちゃんが振り払うかどうか…俺は振り払わないに賭ける。」


その言葉と共に引き寄せられ腰に回される腕。ひ弱だと思っていた彼の腕は予想よりも男性らしくてどきりとしてしまう。


「…そんな賭けは無効です。私が振り払えば終わることですから。」

「じゃあ振り払えばいいじゃない。」


そう言いながらシャツの中にそっと入ってくる手にびくりと身を捩るが回された腕がそれを許さなかった。


「…いいの?抵抗しなくて。このままだと俺、調子に乗っちゃうよ。」


捲られたシャツの隙間から見える素肌の部分に軽く噛みつかれて、俺のこと少しくらいは気になるでしょ?その問いにいいえと返すのが精一杯だった。


「名前ちゃんも随分嘘つきだね。」


その台詞を聞いて、いつの間にか彼に惹き込まれていたことに気付いた。もう手遅れだろうか。



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