22Kiss
□腹…回帰
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創一さん。そう呼ぶ私の事を名前と呼んで抱き締めた彼は少し遠慮気味で。持病の発作が起きたことを丈一さんから聞いてはいたけれど、いつもながら他人行儀な彼に寂しくなる。
今回は私の事を完全に忘れた訳じゃなかったけれど、次こそは忘れられてしまうのではと恐怖する日々に何処かで諦めすら感じてしまう。
切なそうに眉を寄せて私のことを覗くこの顔も、確かめるように私に触れる指先も、なくなる日が来るくらいならばいっそ……そんなことを考えていると頬を摘ままれ叱られた。
「今、よからぬ事考えていたね。記憶が無くなっても名前のことなんかお見通しだよ。」
そう言って微笑む彼にぎゅっと抱き付くと、息が出来なくなるくらいに抱き締め返された。
「私の事、完全に忘れて他の人に恋する時がくるかもしれないですね。」
彼の胸に顔を埋めながら不安をポツリと吐き出せば、急に抱えあげられて宙に浮いた足に小さく悲鳴を上げる。
今度は私が彼を見下ろす形になって、見上げてくる彼は不機嫌な顔。
「そんな所だと思ったよ。でもね安心して…僕は何時だって君に恋し続けているよ。」
お腹に顔を押し付けた彼は続けた。
「記憶がなくなる度に、名前のことを好きだと思い知らされる。僕が忘れてしまった名前のことを知っている過去の僕に嫉妬するくらいに。」
その言葉を聞いて、どうしようもなく彼が愛しくなって彼の言葉を借りる。
「私も毎回、創一さんに恋します。」
そうしてくれなきゃ困ると子供のようにくっつく彼の頭をそっと包むように抱き締めた。
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