22Kiss

□指先…賞賛
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今日も私の前を颯爽と歩く彼の背中を"いつか隣に並べたら"と見つめて、一通り後ろ姿を堪能してから声を掛ける。


「おはようございます!今日もセクシーですね、素敵です丈一さん!そして大好きです!」


何度も鏡の前で確認した笑顔を浮かべて彼を見ると、いつも通りの呆れ顔。


「…朝からうるさい、苗字。その元気をもう少し仕事に活かせ。」


冷たくあしらわれるが無視されたことは一度もない。そんな優しさについつい表情を崩すと、にやにやするな気持ち悪いと怒られてしまった。


「私の元気は丈一さんに気持ちを伝える為に使います!」


「もういい…今日は俺の掃除の補佐だ。難しい仕事ではないが、油断するなよ。」


やっぱり優しい彼に続いて車に乗り込む。今日の仕事場は都心から少し離れたヤクザの事務所だった。現場へ到着するなりドアを蹴り破った丈一さんは部屋へ入ると一番近くにいた男を投げ飛ばして残りの男達を数える。


「…1、2、3…7人か。随分ゴミが溜まっているな。だがおじさんが来たからには安心だ、すぐに綺麗になる。」


その言葉を聞いて怒り出す男達から私を隠すようにして立った彼は部屋の中を見たまま言った。


「苗字、お前は手を出すな。こんなゴミは俺一人で充分だ。ドアの前で待ってろ。」


私が答えるよりも早く動き出した彼はあっという間に男達をなぎ倒していく。今日も格好いいなと見惚れていると突然背後から掴まれ捻り上げられた腕に痛みを覚える。


しまったと思った時には人質のように刃物を首筋に当てられていて、動くなと叫んだ男の声に丈一さんが此方を振り向く。


「じじい!動いたらこの女がどうなるかわかるな?」


…舌打ちをし、私の後ろの男を睨み付ける彼にごめんなさいと謝ろうとすると首筋に感じた微かな痛み。


「お前も動くな!俺は本気だからな!」


仲間が倒れているのを見てパニックに陥っているのだろう。首筋に食い込む刃に更に力が入っていることを痛みが知らせてくれる。両手を挙げて降参のポーズを示す丈一さんは


「参った参った。俺は何もしないからその女を放してやってくれ。」


そう言いその場に膝をつく。


そんなの信用できるかと喚き散らす男に再度同じ台詞を繰り返している彼。


男の意識が丈一さんに向いている為、緩まった腕の拘束に気付いて首に当てられていたナイフを左の手で抑えその勢いで振り向き様に足下を掬うように蹴りをお見舞いする。


私の反撃に驚いた男がよろめいた瞬間に丈一さんは私を引き寄せ、男に拳を入れた。男が倒れ、静かになった事務所に丈一さんの溜息を吐き出す音がやけに響いた。


「だから油断するなと言っただろう。まぁ、さっきの蹴りは良かった、助かった。それより手、見せてみろ…切れてるじゃないか。」


元々怖い顔を更に険しく恐ろしいものにし私の左手を見て呟く。


「ちょっと指を切ってしまっただけなので大丈夫です。ごめんなさい。」


謝る私の手を離そうとしない彼を怪訝に思い覗き込むと、血が出ている指を口元に運び1本ずつ口に含んでは血を綺麗に舐め取っていく。


突然の出来事にあたふたと慌てる私を見て、意地の悪い笑みを浮かべた彼は


「…なんだ。そんな顔も出来るのか、いつもの顔より色気があっていいぞ。」


言いながら薬指にキスをした。



「…丈一さん、今のは指輪の代わりですか?期待してもいいですか。」


「何ふざけたこと言ってる。馬鹿かお前。」


そっぽを向いてしまった彼の背中に抱きつき


「…好きです。」


そう呟くと、知ってると返ってくる。


「………もう少し大人になったら考えてやらんでもない。」


なんて言う彼に

「そんなに待ってたら丈一さん、おじいちゃんになっちゃいますよ。」


クスクス笑うと、調子に乗るなと怒られた。


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