22Kiss

□手首…欲望
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南方さんから頼まれた缶コーヒーと、ついでに好きなもの買ってこいとの言葉に甘えて選んだホットレモンを両手に持ち2つの温かさで暖を取りながらエレベーターを待っているとポンと叩かれた肩。


叩いた人物を確認するべく振り返ると、門倉立会人がにっこり笑顔で立っていた。


「門倉立会人、お疲れさまです。今お戻りですか?」


「いや、帰るとこじゃった。けど苗字の姿が見えたからの。」


なんだか初めて話したときより自信無さげな様子で私から目を反らした彼に、「南方さんは書類整理に追われてて事務所にいますよ。ご用件ならお伝えしておきましょうか?」と聞くが返ってきたのは曖昧な言葉だった。


「…別に南方に用はないんやけどね。それより苗字は急いで戻らなあかんか?」


「缶コーヒーを頼まれていたので、それを渡しに行くだけですよ。」


「なんじゃ、そんだけか。そもそも何であいつは…事務所に珈琲くらいあるやろ。」


そう文句を言って眉間に皺を寄せた彼は一緒に行くと到着したエレベーターに乗り込んだ。


エレベーター内でチラリと私の様子を窺う彼にどうしたのか尋ねると返ってきたのは賭朗に来てから色々な人に聞かれた事と同じだったので、ふふと笑いながら答える。


「南方とは…どういう関係なんじゃ?」


「警視庁からの部下ですが、私は入ってそんなに経っていなかったので数年の付き合いってところですね。男女の仲ではありませんよ…皆さんに聞かれますけどね。」


「そうか、仲良さそうやけどね。」


「新卒の頃から面倒を見て下さってます。そういう門倉立会人こそ、南方さんとは古い仲だとか。時々お話を窺ってますよ。こないだは自己紹介のみに終わってしまいましたが、覚えて下さってたみたいで嬉しいです。」


そうか。そう独り言のように呟いた彼はそれきり前を向いてしまい目が合わなくなった。だからと言って気まずい雰囲気にはならず、何となく心地良い空気を感じていると目的の階に到着する。


事務所までの廊下を隣に並んで歩き、南方さーん戻りましたよー!と大きな声と共に扉を開くと、うとうと居眠りしかけていた南方さんが背筋を伸ばしたのが目に入った。


「南方さん、寝てたでしょ?!珈琲これで良かったですよね?」


笑いながら缶コーヒーを渡し、私はこれを買わせて頂きました。そう言ってホットレモンを見せると、「ああ。サンキューな。」と言って横に立っていた門倉立会人に視線をやる南方さん。


「門倉、どうしたんだ。何か用か?」


「別に用なんかないよ。さっき下で苗字のこと見掛けたから着いてきただけじゃ。それより南方、たかが珈琲くらいでわざわざ部下使うなや。」


「…はーん。そういうことな。門倉、お前も可愛いとこあるんだな。」


「おどれ、売っとるんか?余計な事言うたら粛清じゃけぇの。」


「おお!怖い怖い!俺はこれから仕上げなきゃいけない書類あるから、苗字には出来ないやつだし…門倉と帰っていいぞ苗字、ご苦労だったな。」


彼らのやり取りを聞いていると、突然此方に話し掛けてきた南方さんに条件反射のように、はい!と返す。


それを横目に見ていた門倉立会人に、ほな行こか。そう言って手を掴まれて先程並んで歩いた廊下を足早に引っ張られていくので必死に着いていく。


急に立ち止まった門倉立会人が掴んでいた手を離して振り向いたので、彼の胸にぶつかってしまう。慌てて離れようとすると、再び手首を掴まれて随分熱を帯びた右目に見つめられてどきりとした。


「…南方も協力してくれるみたいやし、はっきり言うとくわ。ワシ、苗字に一目惚れしたんじゃ。」


「え…」


突然の告白に戸惑う私に、彼はクスクス笑って掴んでいた私の手を優雅な仕草で口元へと持っていくと、カプリと噛んだ。びっくりして小さく叫ぶ。


「きゃっ!痛っ!なんですかっ!?」


「予想通りの反応やね。まあ、気付いとらん思っとったよ。これから口説いてくよ、覚悟しとくんやね。」


そう言って、さっき噛まれた手首に今度は唇を当てられ、ちゅ…と音を立てて離れていくのをぼうっと見つめていると


「あと、門倉立会人って呼ぶの禁止な。雄大でええよ。せめて門倉さんやね。」


上目遣いに覗き込んでくる彼に、門倉さんと呟くと妖しい笑みを浮かべて、はよワシのもんなれ。そう言われて…何とも答えられずに目を反らした。



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