22Kiss

□腕…恋慕
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遅めの夕食だったが二人揃って家で食べるのは久しぶりで、食べ終わった後もコーヒーを淹れてソファーで寛いでいた。


隣の彼がそわそわし始めたことには勿論気付いていたのだけれど、ここのところ続いた激務に疲れが溜まっていたのも事実で…相手をする元気もないと気付かぬ振りでやりすごそうとしていた…のだが、


「なぁ、名前。」


私を引き寄せ、後ろから抱き締める形で首筋に顔を埋めてくる彼に身体を固くする。


「ごめん、雄大。疲れてて…そんな気分じゃなくって。」


謝りながら彼から身体を離そうとすると再び首筋にキスを落としてくる。


「…今からワシがそんな気分にさせたる。」

「ほんとに、出来ないって。」


それでも拒んでいると、眉間に皺を寄せた彼が睨み付けてきた。


「何でや、生理ちゃうやろ?」

「…最低。久しぶりに家でゆっくりできるんだから、この前観られなかったDVD観ようよ。」

「何が最低や、久しぶりなんよ?だからこうやっていちゃつきたいんやけど。」

「やだ。」


まだくっついている彼を引き剥がす。そのままお互い戦闘体制に入るかと身構えて様子を窺う。いつもなら雄大がそのまま強引に事を始めてしまうが、今日はほんとに気分じゃない。


断固たる決意を持って見つめる私を前に予想外にあっさり引き下がった彼に拍子抜けしたが、DVDを観ようと準備を始める。


珍しく意見が通ったことに上機嫌だった私は彼がぶつぶつと呟く言葉になかなか気が付かなかった。


「……………るからな。」

「え?何て?」

「相手してくれんねやったら浮気したる言うたんじゃ!」


あっさり引き下がったと思っていたが、随分拗ねていたらしい。


「…本気で言ってる?」

「おう、本気や。ワシが浮気したとしてもそうさせたおどれが悪いんじゃ!」


どこまで子供なんだと呆れを通り越して可愛さを感じてしまう。私だけに見せるわがままに、溢れてしまう笑みを隠すことなく彼を覗き込む。


「浮気されたら、泣いちゃうかも。」

「は!泣きながら謝らせたるわ。ほったらかしてごめんなさいってな。」


ああもう、可愛くて堪らない。自分の言ってる言葉の意味がわかっているのだろうか。今日も負けたなと1つ溜息をついて、ソファーでふんぞり返っている彼に近付き今度は此方から抱き締めた。


「お風呂入ってからにしよ、ね?」

「ええけど。なんなら一緒に入ってもええよ。」


抱き締め返してくる私よりもずっと逞しい腕に笑いを隠すためにキスをした。



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