22Kiss

□首筋…執着
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以前、1度だけ立ち会った会員の女がやけに記憶に残っていた。専属を持たず、フリーを貫いている身なので色々な会員の勝負に立ち会うのだけれど…勝負内容よりも人物の印象が強いなんて今までの経験上、殆ど…否、初めてだった。


どうしてなのか考えた所で、大した理由は出てこない。…タイプであった、もっと率直に言うと1度抱いてみたかった。そう、どんな顔をして喘ぐのか見てみたかった、それだけ。つまり会員として、ギャンブラーとしてではなく女…性の対象として見ていた。


日々の業務でそんなことを忘れていた矢先のギャンブルの席でその会員に会ったとき、驚きと頭の奥で疼く何かを感じたが表情には出さずに粛々と立ち会いを勤め終え、女の勝ちを宣言した。


「…門倉さんって、以前は拾陸號じゃなかったです?雰囲気は随分変わりましたけど、声が同じですよね?似てるだけ?」


背を向けているため表情までは把握出来ないが、女が確信を持って聞いてきたのが伝わってきた。


「苗字様の仰る通り、諸事情で拾陸號を他の者に譲り現在は弐號として立ち会いを勤めております。」


「なんか、前より…」


振り返りじっと顔を見据えるとほんのり彩られた唇に指を押し当てて、困惑とも恥じらいとも取れる瞳を此方へ向けてくる。


「……前より、素敵ですね。どこがって聞かれるとわかんないですけど。」


恥じらいの瞳だったかと1人ほくそ笑んでいると、急にごめんなさいとコートを着こんで帰り支度を始めた苗字
名前に近づき悪戯に声を掛けた。


「嬉しいお言葉ですね、もっと詳しくお聞かせ願えますか?………プライベートで。」


チラリと部下達を見ると、長年の付き合いだけあって心得ている。声をかけずともその場を後にする彼らに頷きながら目の前の女の肩に手を添える。


返事を寄越さない彼女を自分が今夜泊まるホテルへと誘導するよう歩き始めたときにやっと、えっとだとかあのだとか言っているのが聞こえたが無視を決め込んだ。


1度抱いてしまえば彼女への興味も、どうしようもない頭の奥の疼きも消えるだろうと部屋へ入った瞬間、抱き上げて何か言おうとした口を塞ぐようにキスをした。


恋人同士でもないのでムードや甘さを含んだものではなく、相手のペースや余裕を奪うためだけのそれに必死に応えてくる様子に素直に可愛いなと思う。


セックスを盛り上げるだけの為だった筈のものに思考とは裏腹に夢中になっていたらしく、力なく叩かれる胸元に気付いて彼女を見つめた。


「…いきなり、こんなところで。」


想像よりも慣れていないらしい彼女に、クッと喉をならして抱き上げたままベッドルームへと向かう。靴が、と呟くのが耳元で聞こえたがそれも無視した。


ベッドへそっと下ろして、手早く服を脱がせ現れた膨らみの形を乱暴に変えると聞こえる声に唇を吊り上げる。


揉んでいる方とは逆の胸に唇を寄せて吸い付いたり噛んだりしながら、閉じられた脚を無理矢理開かせた。


「…まっ、て。かどくらさんっ。」


吐息なのか呼びかけているのかわからない頼りない声に顔を上げて、もう一度キスしようとすると待ってと制された。


「…なんや。」


ここまで好きにさせておいて焦らす彼女を軽く睨むが、潤んだ瞳に濡れた唇で見つめられ少し手を休める。


「スーツ…脱がないと、シワになっちゃいますよ。」


余裕が無いのはどちらだと舌打ちしながら乱暴にスーツを脱ぎ捨てて、ネクタイを緩めると誤魔化すように柔らかそうな腹に舌を這わせた。途端に上がる声に目を細める。


自分が何をしても気持ち良さそうに声を洩らす様に気分を良くして、愛撫もそこそこに強引に身体を抉じ開けた。


苦しそうな声に混じって快感を告げる吐息を含ませて、門倉さん、門倉さんと何度も呼ぶ口を自らのもので塞ぐ。


肩を押し返す力の無い手を絡めるように掴んでシーツへ縫い付け、自分の快感を優先して腰を動かし続けた。


待って、もう無理。とうわ言のように繰り返す彼女がぐったりとしてきた頃に頬から鎖骨のラインを指でなぞると、そこに浮かぶ自分が付けた無数の紅い痕に目を見開く。


痕なんて、マーキングしているみたいでみっともない。餓鬼かと苦笑し鬱血の痕にそっと唇を寄せた。その間に緩まった動きに息を整えたのか、微笑みながら両手を伸ばす彼女に身を差し出ししがみつかれると密着する肌が気持ちいい。


耳元で囁かれる門倉さんと自分を呼ぶ声が随分心地よくて、そのまま抱き起こすと今度は此方から名前と囁く。


ぎゅっと抱きつかれて…、1度だけなんて無理だと最初からわかっていたのに気付かぬ振りでやり過ごそうとした自分を恥じた。初めて見たときからハマっていたのはこっちだ。


「…あとで、連絡先教えろっ。」


はい!と涙を溢したのを拭ってやり、今更ながら付き合ってくれと申し込んだ。



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