22Kiss

□唇…愛情
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真っ白の天井を見上げるようにベッドへ寝転ぶ苗字 名前は先程から盛大な溜息ばかり吐いていた。


あぁ、もう。いくら咄嗟だったからって脚の骨やっちゃうとか……また雄大に小言言われる。


つい数時間前、お屋形様と参號立会人とゴルフの帰りに襲ってきた何処かの組の者達からお屋形様を守る際に、相手が鉄の棒を振りかざしたのを脚で止めた。そのとき感じた鋭い痛みに顔をしかめていると、心配した参號に勧められ医務科を訪れたのだか、不全骨折と診断され現在に至っているのだ。


ギプスを巻かれベッドへ投げ出された状態の右脚を見て眉を寄せ再び溜息を吐いている名前のもとへ近付いてくる足音に、さっきまでの暗い表情をどこかへ押しやり扉を見たが、開いた扉から入ってきた人物を確認すると気まずそうな顔をする。


息を切らせて見舞いに来たにしては攻撃的な態度で近づく男に言い訳するように言葉を掛ける名前。


「これは、咄嗟だったから。大した怪我じゃ………」


「はぁ〜。どんな大怪我か思ったら、お屋形様にからかわれたの。」


先程の攻撃的な態度は心配から来るものだったようで、彼女の姿を見て安堵の息を洩らしながらしゃがみこむ男にありがとうと呟く名前に再び怒りを込めた視線を向けた男が立ち上り近づいた。


「大した怪我ちゃうってぇ?仕事休まなあかん程の怪我やろ。お屋形様と判事におどれが怪我で医務室運ばれたて聞いたときのワシの気持ち考えろや。ぼけ。」


門倉の言い分も最もだ。常日頃から怪我には注意しろ、集団に襲われたら真っ先に狙われるのは女である名前だと口煩く言っていたのに、この有り様なのだから文句の1つや2つで片付けられる事態ではない。


「…ごめんなさい。」


大して悪びれもせずに謝る彼女に苛立ちが募る。何て言ったって今日は………、そこまで考えて本来の目的を思い出して何か言おうとした名前をじっと見つめた。


「刃物かと思ったら鉄の棒だったの、弾き飛ばすつもりが脚で受けちゃって…それにヒビが入っただけらしいし、自分でここまで来れたよ。」


あまりにも心配する様子に苦笑する名前と居心地悪そうに口元を手で覆う門倉。


心配する台詞を照れ隠しに凄むよう吐き出し、考えるように腕を組む様子を覗き込む名前との間に流れる沈黙。門倉が何を言い出すか待っている名前に掛けられたのはいつもしつこいくらいに言われている言葉だった為、うんざりした顔を見せた。言い出した門倉はこの後の事を考え、焦れる気持ちを隠すように必死で平常心を装っているのだが、それを名前が知るのはもう少し後だ。


「…掃除人辞めてワシの部下なれや。」


「やだよ、男ばっかりでむさ苦しい。」


「奴らに姐さんって呼ばれたらええじゃろ。」


楽しそうにくつくつ笑う門倉にやだやだと首を振る名前だったが、不意に真顔でベッドへ腰掛けじっと見つめられて気まずそうに目をそらす。そんな彼女の頬をそっと撫でて、彼にしては随分甘く囁きかけた。


「…なぁ、本気で仕事辞めんか?こんな心配すんのもえらいわ。」


「…丈一さんに粛清されちゃう。」


いつになく真剣な顔を見せる門倉に、名前も普段のお小言ではないと察知したのか冗談を交えて小さな声で返してみせたが目の前の男は笑わないどころか、更に張り詰めた緊張感を漂わせるので流石に黙り込んで俯くしか出来ず気まずい空気が流れる。


「寿退社…するか。」


随分経ってからポツリと部屋に響いた言葉を聞いて目を見開き自分を見つめる名前に、ポケットから取り出した小さな箱を差し出す門倉は微笑みながらもう一度ゆっくりと頬を撫でて、窺うように覗き込む。


「…怪我した、運ばれたて聞いたとき何でもっと早よ言わんかったんやて後悔したわ。ほんま、この程度の怪我でよかった。」


唖然とする名前に咳払いを1つして返事を急かす彼の表情はどこか不安げだ。


「これでも、かなり恥ずかしいんじゃ。早よ返事せぇ。」


目を反らして離れようとした門倉の首に腕を回した名前が、彼の唇にそっとキスをする。暫くして離れた二人は見つめ合うと、照れたように笑いあった。


「…どっちにしろ、姐さんって呼ばれるね。」


「それはやだ。」


「嬉しそうな顔に見えるけどね。」


先程までの緊張感もどこかへいってしまい、いつもの調子でふざけてからまた見つめ合うとどちらからともなくさっきよりも長く深いキスをした。



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