22Kiss

□頬…親愛
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楽しかったデートも終わり、自宅マンションまで送ってくれた門倉さんはいつも通りに助手席のドアを開けて私の手を取る。


「楽しい時間をありがとうございました。」


綺麗に微笑み別れの言葉を口にする彼を見つめて、離されかけた手をきつく握りながら勇気を出して言った。


「あの、少し寄っていきませんか…迷惑じゃなければ。」


出たと思っていた勇気も、これだけの言葉を言い終わる前には萎んでいって最後は呟くような声になってしまったのだけど。


門倉さんからの返事がないので、何だかすごく恥ずかしいことを言ってしまったように思えて下を向いていると聞こえてくる声。


「せっかくのお誘いは嬉しいのですが…もう夜ですし、またの機会にさせていただきます。」


ドキドキと高鳴っていた鼓動も一瞬のうちに静かになって、すっと冷たいものが身体を流れていくような感覚に支配される。


もっと一緒にいたいと思っているのは私だけなのかな、そんなネガティブな思考を何とかシャットダウンさせて1つくらいの我が儘は許されるだろうと彼の大きな身体に身を預け


「…じゃあお休みのキスしてください。」


そうねだると頭の上からはっきりと聞こえた溜息。今度こそ泣きそうになっていると、身体を離され手を引かれて車に押し込まれた。


何も言わずに車を走らせ、少ししたところでちらりと此方を窺いながら掛けられる言葉。


「…誤解なさるといけないので申しておきますが。名前さんへの気持ちがないだとか、そういう事ではないですよ。」


「じゃあどうして。」


気まずい沈黙の後、車が止まり門倉さんが此方を覗き込む。珍しく手袋をしていない彼の手の甲で頬を撫でられ、いつの間にか溢れてしまっていた涙を拭われた。


「夜分に男を連れ込んでいるなどと近所に噂されるのも不用心でしょう……マンションの前でのキスも同じです。」


彼の言わんとすることが解らないのは私が子供だからなのか。返事をしない私に彼は続ける。


「名前さん、貴女が思っている以上に私は貴女のことを大切にしているのですよ。ですから余り私を煽らないで下さい。」


「…じゃあ今キスしてください。」


まったく貴女は、そう聞こえたのは耳の随分近くで。一瞬頬に触れて離れていく熱に頬を押さえて彼を見つめる。


「あんまり可愛いことを言われると私の今までの努力が無駄になります……来週に纏まった休みが取れるので旅行を兼ねて遠出しましょう。」


驚く私の耳元で、

「じゃけぇ、そんときまで待っとけ。」


クスクス笑う彼の顔を見ることが出来ずに下を向いたまま大好きですと呟いた。



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