〇アルジャーノンに花束を(檜柳)

□強がりはおよし
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ドリームフラワーサービスでの午後からの配達が始まっていた。

今日は、珍しく柳川と檜山がペアでの配達だった。

檜山は配達の準備をしていたが、なかなか一緒に行くはずの柳川が来ない。


檜山「何してんだ?あいつ。」


呟いていると、フラフラとした足どりで柳川が檜山のいる車の方へとやってきた。

どこか様子がおかしい。

いつか、ポーカーのイカサマが同僚達にバレてボコられた時のようだった。


檜山「おい柳川、お前。」

柳川「あ〜悪かったよ遅れて。
そんな怒んなって檜山くん。」


そう言って柳川は、何事もないように振る舞い運転席に乗ろうとした。

乗ろうと右手でハンドルを掴んだ、その時。

柳川の顔が歪んだ。


柳川「いっ!?」


小さく声をあげた。

そんな柳川に気づかないわけもなく檜山は声をかけた。

檜山は、柳川に歩み寄る。


檜山「!?おい、どうした?
お前、その手。」


柳川の右手首は、紫色になりアザができていた。


檜山「まさか、また殴られでもしたのか?」

柳川「えぇ〜?
…イカサマバレてボコられたんだよ。

務所上がりは怖いねぇ〜。
でも平気平気!」

檜山「平気って。

まぁ、イカサマは自業自得だろうけど。
その手じゃ運転は無理だろ。
今日は代われ。」

柳川「だぁかぁらぁ〜、大丈夫だっつってんじゃん!」

檜山「黙っとけ。
事故でもおこされたら困るだけだ。

お前は助手席。」

柳川「……あっそ。」


こうして、午後の配達は檜山が運転し行う事になった。

















配達中、車の中で。

檜山が運転中、チラッと柳川に目を向けると窓の外をボーっと眺めていた。


檜山「お前、いい加減にしないとヤバいんじゃないか。」


突然の檜山の言葉に、柳川が顔を振り向かせた。


柳川「……は?
なにが?」

檜山「そのままイカサマ続けてたら、いつまたバレるか分かんねぇだろ。

そのたんびにボコられてたら、お前の体がもたねぇだろ。」

柳川「あっ、そうゆうことね。

ははっ、檜山くんさぁ〜。
もしかして俺の事心配してくれちゃってんの?

やめろよな、気色悪いわぁ〜。」

檜山「別に心配とか、そういうんじゃねぇけど。

って、気色悪いってお前なぁ!」

柳川「気持ち悪いだろ普通〜。
男に心配されてもなぁ。

まぁ、美人のお姉さんだったら泣いて喜ぶけどねぇ。」

檜山「お前なぁ。
俺は真面目に、「しなくていい。」


柳川は、檜山の言葉を遮った。

信号待ち、柳川の顔を見ると先程までのおちゃらけた表情ではなく無理をしているような、そんな笑みを浮かべていた。


柳川「お前は、そんな心配しなくていいんだよ。」

檜山「柳川?」

柳川「俺の事なんか真面目に考えても、な〜んも良いことないって言ってんの。
お前は自分の心配だけしとけよ。」








檜山「……お前は、本当のお前はどっちなんだ?」

柳川「え?」

檜山「…いっつもふざけて騒いでるお前と、今のお前と。

本当のお前は、一体どっちだ?」

柳川「……はっははっ。
さぁ、どっちでしょうか!」

檜山「ごまかすな。
俺は真面目に聞いてんだ。」


その時、信号が青になった。

柳川がパチンッと手を叩く。


柳川「はい!
この話は終了〜。

檜山く〜ん、信号青だからねぇ。
行った行った〜!」

檜山「ったくお前は。」


仕方なく檜山は、車を発進させた。

上手くごまかされたと思った檜山の耳に、柳川の呟きは届いていなかった。







柳川「お前は汚れちゃいけないよ。」



俺みたいなクズの心配するなんて、お前はバカだよ檜山。

そんな事して、お前が汚れることはない。

お前は今のままでいたほうがいい。




こっちに来ちゃ、だめだよ?




本当の俺なんて、知らなくていい。

ほんとは知られるのが怖いだけ。




頼むから、気づいてくれるな。

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