大切なもの


□遠くなってゆく声へ
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昨日のユウナの様子がどうも腑に落ちない。
俺に何かを隠しているような、そんな気がする。


『この里を守りたい』


そう言ってた時のユウナの後ろ姿がとても儚かった。
昨晩はそんなことばかり考えていて、結局一睡もできずに朝を迎えた。

俺はユウナに振られた。簡単に言えばそうなる。
でも冷静にユウナの言葉を思い返してみると、やっぱり何かが腑に落ちない。それが何かって聞かれてもはっきりとは答えられないけど、でもきっと何かある。そんな予感が身体中を巡っていた。

このまま考え続けても埒があかないから朝一番でユウナの家に向かう。
インターフォンを押しても反応がない、もう一回押してもやっぱりダメ。まだ夜が明けてすぐなのにもう任務?なんて不思議に思ってドアに手をかけるとがちゃりと開いた。無用心だな、なんて思いながら「ユウナー?入るよー」と声をかける。ドアを開けると、そこには何もなかった。文字通り何もなかった。

つい先日まであったはずのユウナの物が何ひとつなくがらんとしている。
まるで今までそこに人なんて住んでなかったみたいに。そして当然、ユウナの姿もそこにはなかった。


その瞬間、全身を嫌な予感が駆け巡って俺はユウナの家を飛び出した。

体中に嫌な汗が伝う。
里中を駆け回ってあの小さな背中を探す。一向に見つからなくて焦りだけが募っていく。

東門に近づいたとき、やっとその姿が見えた。
よかった、やっぱり嫌な予感なんて外れてたんだ。俺は勢いそのままに叫ぶ。



「ユウナ!!」



ゆっくりと振り返ったユウナを見て俺は固まった。
なぜならユウナの額当てに、一本の線が入っていたから。



「ユウナ、おまえ…」

「…カカシ、」



消え入りそうな声で俺の名前を呼ぶユウナ。
なんで、なんでだ。そんなことしか考えられなかった。ただ呆然と見つめ合う俺とユウナを遮るようにひとりの男が立ちはだかった。



「ほォ。この方があの有名な写輪眼のカカシさんですか、お目にかかり光栄です。私は干柿鬼鮫と申します、以後お見知り置きを」

「…無駄話はいい、行くぞ鬼鮫」

「わかりました」



その男に腕を掴まれてユウナが振り返った瞬間きらりと何かが光って落ちた気がした。そして最後に音もなく“さよなら”と口が動いた気がした。

どんどんと遠くなっていく背中をただ見つめる。

俺はしばらく、その場から動けなかった。




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