大切なもの


□届かぬ本音
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「おっきい里だなぁ」



火影岩の上から夕暮れに赤く染まった里をぼんやりと眺めた。

木ノ葉の忍でいられるのも今日が最後。
明日の朝、私は里を抜ける。

父さんたちにもごめんって伝えたけど、きっと怒ってるだろう。家族不幸な私を許してください。そしてきっと、里のことを守ってください。

結局カカシには会えなかったなぁ。いや、会わないようにしてたんだ、たぶん。会っちゃったら決心が鈍りそうで、ここにいたくなりそうで。本当はずっといたいんだけど。離れたくなんてないんだけど。でも大切なものを守るためにはそうするしかなくて。
大切なみんなを守り助けるために学んだはずの医療忍術を敵に使う。それは、大切な仲間が危険にさらされることを意味していて。


守りたいけど、守れない。
守ってるつもりだけど、守れてない。


明日から死ぬまで私は、その矛盾と心の葛藤を抱え続けて生きることになる。

綱手様、きっと怒るだろうなぁ。怒るで済めばまだ良いほうか。呆れられて忘れ去られていくのかな。だとしたらやっぱり悲しいや。大好きで大好きで、尊敬してやまない私の生涯たった一人の師。弟子が抜け忍なんて不名誉背負わせちゃうなぁ。
シズネは、綱手様のことちゃんと見てくれてるかな。あの人の金使いだけは常に目を光らせてないといけないから。でも、シズネなら大丈夫か。なんてったって私の可愛い妹弟子だもんね。綱手様のこと頼んだよ。


みんなに私の想いは託したし、言いたいことも言えた。
ただ紅に何も言えてないのが心残りかな。黙って出てったら怒るだろうなぁ。でも勘のいい紅だから、バカな私がいくらはぐらかしたところでばれちゃうだろうし。そんなヘマはしたくないんだ、ごめんね紅。幸せになって。



「なにしてんの、こんなとこで」



そんなことを考えてたら後ろから聞こえたのは大切な人の声で。今一番聞きたくて、でも聞きたくなかったそんな声。



「どうした?悩み事?」

「…うーん、ま、そんなとこかなぁ」

「俺でよければ話してみなよ」



相変わらず優しいなぁカカシは。でもごめん。カカシにはやっぱり話せないよ。
引き止められるのわかってるから。そしたらきっと今以上に離れたくなくなっちゃうから。



「ね、カカシ」

「ん?」

「カカシと出会って20年以上経つけどさ、その間にいろんなことがあったよね」

「…そうだね」

「私はカカシたちに救ってもらって、友達だって言ってもらえて今こうしてここにいる」

「うん」

「オビトとリンが亡くなったり、ミナト先生が亡くなったり、辛くて悲しいこともいっぱいあったよね」

「…あぁ」

「でもどれも全部、この里の忍として生きてきたから起こったことなんだよね」



そう言いながら私はもう見ることのできない大好きな里の景色を目に焼き付ける。



「私さ、木ノ葉が大好きなんだ。綱手様やナルト、ミナト先生やオビトにリン、それからカカシに出会わせてくれたこの里が」

「…あぁ」

「だからこの里のこと、どうしても守りたいって思うんだ」

「…うん」

「…たとえ、身を切るより辛い選択をすることになっても、絶対この里を守りたいんだ」



ダメだ、泣くな私。耐えろ。耐えるんだ。



「ね、カカシ」

「ん?」

「…返事のこと、なんだけど」



私がそう言った瞬間、後ろにいるカカシが強張った気がした。
ふーっ、と息を吐いて振り返る。笑顔だ。笑顔で言え。



「カカシ」

「…」

「私のこと好きだって言ってくれてありがとう」



最後まで笑顔で。笑顔で言え。



「だけど、私のことは忘れて幸せになって」

「!」



私がそう言った瞬間、カカシはやっぱり顔を強張らせた。
そんなカカシに小さくごめんと言って横を通り過ぎる。


カカシ。私のことを好きだって言ってくれてありがとう。本当に嬉しかったよ。

この数ヶ月で私は気づいた。
カカシのことが好きなんだと。

だけど私は里を抜ける。どんな理由があれ里抜けは大罪。カカシにこれ以上辛い思いはさせたくない。こんな重荷を背負うのは私だけで十分だから。

遠くから、カカシの幸せを願ってるから。
…でも、最後にこれだけ言っても良いかな。




「…カカシ……大好きだよ」






届かぬ本音
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