大切なもの
□神様なんていなかった
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カカシの胸で思い切り泣いてから数週間。
私はまた任務に明け暮れていた。
カカシが教えてくれた。三代目の想いは、火の意志は私の中にもあるって。
だからこそ三代目が命をかけて守った里を守りたいとそう思えた。カカシには感謝してもしきれない。また助けてもらっちゃったなぁ。
そんなことを考えながら木ノ葉へと急ぐ単独任務の帰り道。
肌を突き刺すような大きなチャクラを感じて足を止めると、目の前にふたりの男が降り立った。黒地に赤い雲の模様が入ったマントを着て笠を被ってる。見たことないこんな奴ら。でも敵で、それもめちゃくちゃ強いってことは直感で分かった。
「あなたがユウナさんですね?」
「…あんたたち、誰」
そう言って睨みを利かすと、男たちはぱさりと笠をとった。
その片割れが誰か分かった瞬間私は目を疑った。それは私が里を出る前、何度かカカシと一緒に話したことのある、
「お久しぶりです、ユウナさん」
「…イタチくん」
サスケの復讐の相手で兄でもある抜け忍、うちはイタチだった。
「ほォ、おふたりはお知り合いでしたか。それなら話は早いですねェ」
「…イタチくん、どうして…」
サスケにあんなに辛い思いをさせたの。
その言葉が喉に詰まって出てこなかった。
最近カカシからよくサスケの話を聞くようになった。前にも増して復讐にとらわれていると。一族を皆殺しにした兄を殺すことだけを考えて生きている、それがうちはサスケという少年だった。
「ユウナさん、俺と一緒に来てください」
「…やだ、って言ったら?」
私のその言葉にイタチくんの隣にいる魚みたいな男がふっ、と笑って言った。
「あなたの師を殺し、木ノ葉を潰します」
絶望的な言葉だった。
綱手様を殺して木ノ葉を潰す?そんなことできるわけがない。
頭はそう思ってるのに、この男が放つ空気がそんなことはいとも簡単だと言ってるようにさえ思えて。
「我々は暁という組織に属する者。綱手さんの弟子であるあなたを、我々暁は必要としているのです」
「…暁、」
綱手様と行動を共にしていた時、たまたまお会いした自来也様が綱手様とその話をしているのを聞いたことがある。
抜け忍を中心に構成された10人ほどの小組織。しかしその誰もが同胞殺しやクーデターを企てたなどのS級犯罪者でひとりひとりが一国を落とせるだけの力を持っている。“戦争請負組織”とも言われ潰した里、国の数は計り知れない。
そんな組織がなんで私なんかを必要だっていうの。
「我々暁には医療を扱える者がおりません。そこで優秀な医療忍者でもあるあなたにその役割を担っていただこうと思った次第です」
変な顔に似合わず丁寧に淡々とものを言う男。
この男の圧倒的な佇まいにやっぱり絶望しかなくて。私には拒否権なんてなくて選択肢すらない、そう思わざるをえなかった。里を綱手様を守るために、私はS級犯罪者と共にしなきゃいけないなんて。
「あなたは我々と共に来るしか師匠と里を守ることはできませんよ。どうしますか?」
「…」
「ユウナさん、」
こころなしか切なげなイタチくんの声に彼を見ると、俺を信じてくれとそう言ってる気がして。なんでかわからないけど、ただの勘でしかないけど彼を信じれば大丈夫な気がした。
「…わかった。ただし条件がある」
「なんでしょうか」
「私はあんたたちに着いていく。やれと言われたことはやる、それは約束する。ただ、」
「ただ?」
「木ノ葉と綱手様には絶対手を出さないって約束して」
「わかりました、約束しましょう。では1週間後、木ノ葉の里の東門にお迎えにあがります」
そう言って消えたふたり。消える瞬間、最後に見たイタチくんの切なげな顔が頭から離れなかった。
神様なんていなかった