大切なもの


□よろこばしいこと
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「そんじゃ!ユウナの帰還と上忍昇格を祝して!かんぱーい!」



威勢のいいアンコの音頭で始まった飲み会。
昨日アンコが「ユウナの帰還祝いと昇格祝いやるわよ!明日19時に酒酒屋!会費3000両!!」とみんなに大きな声で言って回っていたらしく、カカシや紅たちと来てみれば急にもかかわらず結構な人数が集まっている。

ありがたいけどなんか恥ずかしい、でもやっぱり嬉しい。
みんなが楽しそうに飲んでいるのを見てるだけで幸せになれる。



「こらこら主役!あんたが飲まないでどうすんの!!」

「あー飲んでるよアンコ。大丈夫」

「この前より飲んでないじゃないの。体調でも悪い?」

「いやいや。みんなが楽しそうに飲んでるの見るだけでなんかこう、胸がいっぱいで」



アンコと紅が心配して声をかけてくれたけど、ホントにただ幸せで。

いろんなところに一升瓶片手に絡みに行くアンコ、3人組で陽気に肩を組むゲンマ、しっぽりとふたりきりのような空気感でウォッカのショットを傾けるアスマと紅、開始10分ですでに泥酔のガイに悪絡みされるカカシ。

みんながみんな笑顔で楽しそうで、ホントに胸がいっぱいになる。そんな様子を眺めながら日本酒をくいっと傾ける。こんなに幸せなことはないよ。

帰ってきてよかったなって。みんなが迎え入れてくれてよかったなってそんな気持ちでいっぱいになる。それに、こんなに酒が美味しいのはやっぱり木ノ葉だからかなぁなんて思ったりして。



「ハァ…ガイのやつ、弱いくせにバカみたいに飲むんだからたまんないよ」

「はは。お疲れさん」



「カカシィ〜勝負らァ〜!」と呂律の回っていないガイに絡まれ逃げてきたカカシはゲッソリしてる。
だけどなんだかんだ言いながら勝負を受けたりしてるのを見るとこっちも楽しくなるっていうか。ガイって意外といい奴だしね。そんな苦笑いの私の隣に腰を下ろし、深い息を吐いて持ってきたおちょこを傾けるカカシ。



「ユウナは飲んでる?」

「まあちびちびと」

「そっか。ならよかった」

「あ、あの…ユウナさん、ですか?」



突然聞こえたその声に振り向くと、中忍と思しき女の子数人がこちらを見ていた。
もちろん初めて見る顔だし何の用だろうと「うん、どうした?」と首をかしげると、真ん中の子がもじもじと言葉を紡いだ。



「あ、あの…ユウナさんって、あの伝説の三忍、綱手様の一番弟子なんですよね…?」

「まぁ、そうなるのかな。それがどうかしたの?」

「わっ、私に、医療忍術を教えてください!!」

「………は?」



突然何を言い出すんだ?私がこの子に医療忍術を?なんで?



「申し遅れました、私中忍のサキと言います!私、綱手様みたいなくノ一になりたいんです!男にも負けないくらい強く!!だけど…綱手様は里には帰ってこられないし、チャンスはもうないと思ってました。でも綱手様の一番弟子のユウナさんが帰ってこられたと聞いて、もういてもたってもいられなくて!ホントはこの飲み会も上忍の方々だけだってわかってたんですけど、ユウナさんに会えるのは今日しかないと思って…それで、」

「は、はぁ…」

「…ユウナ師匠、私に修行をつけてください!お願いします!!」



いやそんなに思いっきり頭下げられても。私、弟子持つほど大した人間じゃないし。

まったく、つくづく罪な人だよ綱手様は。
会ったこともないこんな若い子から憧れられてんだもん。これじゃあいつまで経っても追いつけないじゃないか。



「サキちゃん、だっけ?あなたのその気持ちは受け取るよ、今度綱手様に会ったときに伝えておく。ただ申し訳ないんだけど、私は弟子を持てるほど出来た人間じゃないんだ。ごめんね」

「…そう、ですよね。突然すみませんでした」

「あ、でも私近々木ノ葉病院で医療忍術の研修会するんだ。よかったらそれにおいでよ。それ終わりで時間があったら教えるよ?そんなたいしたことは教えてあげられないかもだけど」

「え!いいんですか?」

「もちろん!医療忍者はどこでも不足してるし、なりたいって思ってくれるのは助かるしね」



「だから一緒に頑張ろう」
そう言ってにっ、と笑えばサキちゃんもぱぁっ、と笑って「ありがとうございます!!」とまた思いっきり頭を下げて去っていった。
その背中を眺めながら日本酒の入ったおちょこを傾けるとカカシの視線を感じた。



「なによ」

「んー?いや、お前も立派になったなぁと思ってね」

「はぁ?」

「昔のお前なら突っ撥ねてたでしょ、あぁいうの。でもお前は断るだけじゃなかった。ちゃーんとあの子の気持ちも汲んで提案した。立派なもんだよホント」



そう言っておちょこを傾けるカカシにお前は親父かという言葉を飲み込んだ。
カカシはものすごく優しい顔をしてたから。素直に喜んでくれてるとそう思ったから。



「…そんなんじゃないけど、でも、カカシがそう思ってくれたんならよかったよ」



あの日の約束に、ちょっとは近づけた気がするから。






よろこばしいこと
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