大切なもの


□新しい出会い
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執務室を去りその足で演習場へ向かう。
三代目から上忍試験は1週間後に行うと言われた。相手は当日発表するとも。それまでの期間はたった1週間しかない。でも、されど1週間。このうちに実戦での勘を取り戻さなきゃいけない。
綱手様直伝の桜花衝、そして私がもともと得意として使っている忍術。この2つをうまく使いこなせれば私は大切なもの全部を守れる。

無茶かもしれない。無謀かもしれない。でもやらなきゃなんない。私はみんなを守りたい。そのために死に物狂いで修行した。何度もくじけそうになった心を奮い立たせた。


カカシとの約束を守るために。


がむしゃらに修行をして、気づけばてっぺんにあった陽は傾き始めてる。
ふーっと息を吐いて額に滲んだ汗を拭うとふと背後に感じた気配。その方を見ると、黄色い髪に青い瞳の男の子が木陰からこっちをじっと見ていた。

見覚えのある見た目。なんだかミナト先生みたい。懐かしいなぁ。なんて思ってるとふと思い出した。
そうか、この子がナルトだ。ミナト先生とクシナさんの息子の…九尾の、人柱力。



「どうした?」



気づけば自分でも驚くほど自然に声をかけていた。なんだか初めて会った気がしなくて。あの日生まれたあの子がもうこんなにおっきくなってんだ。それもそうか。なんて年寄りじみた考えの苦笑していると、私の声にびくっと肩を震わせたナルトは恐る恐る近づいてくる。



「…姉ちゃん、忍なのか?」

「ん?あ、まぁね」

「…俺のこと、なんとも思わねぇのか…?」

「!」



ナルトのそんな言葉に目を見開いた。
寂しそうな目。人を信じたくてたまらないけど信じられないそんな目。…孤独なんだ、ナルトは。それもそうか。ナルトが生まれてすぐ九尾から里をナルトを守ってミナト先生とクシナさんは亡くなった。見たかっただろうな、この子が立派になってく姿。誰よりも一番近くで見たかったはず。

ミナト先生は里のみんなにナルトのことを英雄として見てもらいたかったのにみんなはそうは見なかった。“うずまきナルト”っていうただひとりの人間を、人柱力だからって“九尾の妖狐”としてしか見なかった。里にそれが蔓延したいつかの三代目の悲しそうな、悔しそうな顔が忘れられない。“自分は無力だ”と唇を噛む姿が今も脳裏に焼き付いて離れない。それほどナルトのことを想ってる三代目は、里長としてナルトにだけ目を向けるわけにはいかない。

だったら、私がナルトを支えなきゃ。ミナト班の3人が私にしてくれたように。私がこの子に教えなきゃ。



「思うわけないじゃん。私はあんたのこと好きだよ」

「!」



驚いて目を見開くナルトに近づいて頭をぐしゃっと撫でた。
寂しかったんだよね。お父さんもお母さんもいなくて、ずっとひとりで。家に帰っても誰もいない。“おかえり”と言ってくれる人も、“ただいま”を言える人も。私も家族を失ったからわかる。それは寂しくて悲しくて、とても辛い。

ナルトの大きな瞳にみるみる涙がたまっていく。その姿にぎゅっと胸が締め付けられて思わず抱き締めていた。



「!」

「辛かったんだよね、寂しかったんだよね。泣けばいいよ。思いっきり泣けばいい」

「…っ」

「今までよく頑張ったね」



ナルトの小さな手が私の服をきゅっと握った。
今までずっと我慢してきたんだもんね。本当によく頑張った。もう我慢しないでいいんだよ。思ってること全部吐き出していいんだよ。
そんな私の気持ちが伝わったのか、ナルトはぽつぽつと言葉を紡ぐ。



「…里のみんな、俺のことのけもんにすんだ。俺ってば、なんもしてねぇのに」

「うん」

「…大人たちは俺のこと見てヒソヒソ話すし、近づいちゃダメだって」

「うん」

「…なんで、なんで俺ってば父ちゃんも母ちゃんもいねぇんだって、友達もできねぇんだって」

「うん」

「……ひとりぼっちは、もうやだってばよ」



私の胸に顔を埋めて声を押し殺して泣くナルトの背中を優しくさすった。
泣けばいい。好きなだけ、気が済むまで泣いていいんだよ。人って泣いて強くなるんだから。大丈夫、ナルトなら誰よりも強くなれる。



「大丈夫、もうあんたはひとりじゃないよ。私がいる」

「…ねえ、ちゃんが?」

「そ。私、ユウナっていうの。今日から私があんたの友達だよ、ナルト」

「!なんで、俺の名前…」

「ん?あぁ、私ってば天才だからなんでも知ってんの。凄いでしょ?」



真っ赤に腫らした目を丸くして私を見つめるナルトに冗談めかしてにっと笑うと、まだ溢れる涙をごしごしと拭ったナルトも同じように笑った。

そのあと「修行つけてくれってばよ!」とうるさいナルトに日が暮れるまで付き合った。終わる頃にはもうへなぁ、と地面に寝転がってゼーハー言ってるナルトに思わず笑った。



「な、何笑ってんだってばよ!俺ってばすっげー頑張ったじゃん!」

「ま、頑張ってはいたかな。クナイも手裏剣もへたっぴだったけど」

「ムキーッ!」



寝転がったままジタバタともがいて怒る姿にまた笑った。ひとしきり笑ったあと急に起き上がったナルト。



「あのさ、あのさ!ユウナの姉ちゃん!」

「ん?」

「俺ってば夢があんだ!」

「夢?」

「そう!火影を越して、里のやつら全員に俺のこと認めさしてやんだ!それが俺の夢!」



そう言ってにかっ、と太陽みたいに笑うナルトに落ちてきた夕日が重なって輝いて見えた。
立派な夢じゃん。あんたなら絶対叶えられるよ。私が保証する。誰よりも辛い思いをしてきたナルトだから。ひとりで生きてきたナルトだから。いつかみんなにわかってもらえる日が来るよ、必ず。



「あとさ、それにひとつ追加!」

「ん?」

「ユウナの姉ちゃんは俺が守る!約束だってばよ!ユウナの姉ちゃんの友達だからな、俺ってば!」

「はは、ありがとう。約束ね」



そう言って絡めあった小指はなんだかあったかかった。





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