大切なもの
□思い出と決意
1ページ/1ページ
「…オビト、リン。ユウナはもう大丈夫だよ」
あいつが去った後の慰霊碑にそう声をかけた。
10年ぶりに木ノ葉に帰ってきたユウナ。
綱手様の愛弟子だけあって、もともと強かった力は桁外れになっていた。
それに何よりも、心が強くなっていると感じた。
俺がユウナを初めて見たのはアカデミーの入学式。
父さんと一緒に行ったアカデミーの校庭に1人でぽつんといたのがユウナだった。父さんはユウナの両親とお兄さんが亡くなったことを知っていて、父さんもその任務についていたらしい。それを伝えに来た父さんに幼いあいつは涙ひとつ流さず「教えてくれてありがとうございます」とそう言ったそうだ。そんな寂しそうに、でもそれを見せないように平然と立つユウナをただ呆然と見る俺に父さんは言った。
『いいか、カカシ。今あの子は1人で孤独と戦ってる。それはとても寂しくて辛いことだ。だからあの子が本当の意味で孤独にならないように、遠くからでもいい、見守っていてあげなさい。そしていつか時が来たら、お前があの子を支えてあげるんだよ』
父さんの言葉の意味がそのときはわからなかったけど、今ならわかる。“1人がいいけど独りにはなりたくない”。俺も大切な人を失ってそう思ったから。
だからと言って俺がユウナに声をかけたのは父さんの言葉があったからってだけじゃない。なぜか放っておけなくて、目が離せなくて、あいつを1人でいさせたくなくて、気づけば俺と同じ想いだったオビトとリンと一緒に声をかけていた。最初は「関わらないで」って突っ撥ねられたけど、でもその目は「ありがとう」って言ってて。だから懲りずに声をかけ続けた。“大丈夫、ユウナは独りじゃない”。そう伝えるために。
少しずつ時間をかけて、ユウナの心をやっと溶かせたそんな時だった。第三次忍界大戦で、俺はオビトとリンを失った。オビトは俺を庇い、リンは俺が殺した。仲間を救えなかった、仲間を手にかけた。オビトが最後に命をかけて教えてくれたことを俺は守れなかった。俺はただ廃れていった。闇に飲み込まれていった。自分は無力だと、打ちひしがれた。そんな俺を闇から救い出すように手を差し伸べてくれたのがユウナだった。
『カカシ、我慢しないで。いいんだよ泣いても』
そう言って俺の背中を優しく叩くユウナのあったかさに、我慢していたものが溢れた。
ユウナの肩に顔を埋めて声を上げて泣いた。抑えようもないほどに泣いた。そんな情けない俺の背中をあいつは嫌な顔ひとつせずずっとさすり続けてくれた。“俺は独りじゃない”。涙が溢れながらもそんな思いに胸が熱くなった。それと同時に気づいた。俺はユウナが好きなんだ、と。
それから数年後、ユウナは綱手様に弟子入りして里を離れると言い出した。俺はその時すでに暗部に入っていて、会う機会なんてほとんどなかったけどそれでもやっぱり寂しかった。そんな情けない俺をあいつは真っ直ぐに見て「大切なものを守れるだけ強くなりたい」とそう言った。頑固なユウナだから、今から俺が引き留めたところで行くのはやめないだろうと背中を押すことにした。だけどやっぱり情けないことに、俺という存在を忘れてほしくなくて別れ際にユウナにこう言った。
『強くなって、そんで俺のところに帰ってきて』
俺なりの精一杯の告白だった。
悲しいことに、ちょっぴりバカなユウナは俺の言葉の意味に気づくことなく「うん!」と元気に返事をして去って行った。
あの日からもう10年。
約束通り俺の元に帰ってきたあいつは、昔よりも逞しく綺麗になっていた。そんなあいつを見てやっぱり好きだなぁなんて再認識したわけで。三十路間近の男が初心みたいに好きだなんてこっぱずかしいけど思ってしまうものは仕方ない。
「…俺もそろそろ覚悟決めるか」
あいつに想いを伝えよう。お前が好きだと言葉にしよう。ちょっぴりバカなあいつだから、きっと真っ直ぐ言葉にしないと伝わらないから。そう決意して空を見上げれば、オビトとリンが「頑張れ」って背中を押してくれた気がして笑った。
思い出と決意