short


□今しがたのよろこびと
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「…おつかれさま、先生」



そう言って微笑みながら、私の膝に乗った先生の頭を優しく撫でた。
つい一時間くらい前に帰ってきた先生は、目の下にひどいクマを作っていた。でもそれもしかたない。だって先生は、忙しい火影としての仕事の合間合間に時間を見つけてはもうすぐ五歳になる娘の顔を見に帰ってくるんだもん。

ただでさえ前から寝る時間もなかったのに、「忘れられたくないからさ」って疲れた顔で笑う先生。娘が生まれてすぐの頃は一日に何度も帰ってくるからさすがに止めたんだけど、「俺は大丈夫だから」って意外に頑固な先生は聞かなかった。でも娘が三歳になって物心つく頃には少し落ち着いて、最近は私が娘を執務室にときどき連れていくようにしてる。あの子もお父さんに会えるのが嬉しいみたいだし。

今夜も帰ってくるなり「もう寝ちゃった?」って聞いてきたから頷くと、寝顔だけ見てきた先生は珍しく甘えてきて、「膝貸して」って言ってこの状態。目を閉じてすぐ寝息が聞こえてきたから相当疲れが溜まってたんだろうなぁ。先生ももういい歳だから、大丈夫だって言いながら限界だったんだろうなって思うわけで。



「…無理しないでよね、先生」



あの子のことを大切に想ってくれるのは嬉しいけど、私もあの子も、先生が無理をするのは嬉しくない。だってこの世でたったひとりのあの子のお父さんで、そしてあの子と同じくらい、私にとって大切な人だから。



「いつもありがとう」



そう言って先生のおでこにキスを落としてすぐ、「ママぁ?」って声が聞こえて振り向けば、リビングの入口には眠そうに目をこする愛娘がいるわけで。
とてとてと歩いてくるのを愛しく思いながら、唇に人差し指を当てて「しーっ」と言うと、私の膝枕で寝てる先生を見てくすっと笑う姿はまだ小さいのに先生そっくりで本当参る。




「起きたの。おトイレ?」
「ううん、さっきパパとママの声がした気がしたんだ」
「そっか」



私と娘の気配にも気づかず熟睡するくらいに疲れてたんだろう先生の隣に娘が寝転ぶ。広げられた先生の腕に頭をのせて擦り寄る娘は本当に可愛い。断じて親バカではない。




「寝ていいよ。パパと一緒に寝な」
「…でもママが、」
「ママはいいから。ほら、眠いでしょ?」
「…ん」




近くにあったブランケットを二枚重ねて二人にかけると、やっぱり寝足りなかったんだろう娘は先生の隣で幸せそうに寝息を立てる。

世界で一番大切な二人のそっくり寝顔を見ながら二人ともの頭を撫でれば、大好きな先生と結婚できて、その人との子供を産めたことを改めて幸せだって思う私がいた。




「おやすみ、だいすきだよ」




だけど、同じくらい大切な子が私のお腹にいることは、この二人にはまだ内緒にしておこうと思う。







もうすぐふえる、だいすきをきみに

fin.

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