大切なもの2

□がんばれのかわりに
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鉄の国から木ノ葉へ戻って一日が経った。
昨日帰って来た途端に上忍班長であるシカクさんに呼ばれ、何かと思えば『上忍衆から、お前が六代目火影に推薦された』ってことで。綱手様が未だ目を覚まされておらず六代目に内定したダンゾウもサスケによって葬られた今、本当にこの里には下の者たちを指示をする者がいない。だから誰かを早々に火影に就けたいのは重々理解できるけど。

…だからって、なんで俺になるのかね。
それこそ上忍班長のシカクさんだとか三代目の息子で元守護忍十二士のアスマとか、いろいろできる人はいるはずなのに。なんで俺になるのか、全く理解できない。正直今はユウナやサスケのことで頭がいっぱいだし、先日マダラが五影会談で開戦を宣言した大戦のことだってある。いろいろ考えなきゃならないことが山積みなのに、それに加えて火影のことなど、今は考えられないわけで。



「よう、カカシ」

「…アスマ」



考えれば考えるほど重い脚を引きずり歩いていれば、どん、と俺の肩に手を置いたのはアスマ。「シケた面してんじゃねぇよ」とうるさいこいつに思い切り眉を寄せてため息をつけば、同じようにため息をつき返されたわけだ。



「その様子を見りゃ、シカクさんから聞いたらしいな」

「…あぁ」

「で、受けんのか?」

「…正直今はそれどころじゃないよ。お前も聞いただろ、大戦のこと。その準備もあるし、ユウナやサスケのことだってある。考えることが山積みなんだよ」

「…あぁな」



俺がそう言うと納得したように唸って顎鬚に手を添えたアスマ。
するとその手を大げさにぽん、と叩いた。



「お前、今から時間あるか?」

「…まぁ、」

「そんじゃあヒアシさんのところへ行け。あの人に話聞いてもらえ」

「…は?ヒアシさん?」



なんだ藪から棒に。なんで普段そんなに話すこともましてや会うこともないヒアシさんのところに?



「いいから行けや。そしたらわかっからよ」

「…」



そう言ってさっさと去っていくアスマの背中を眺めながら、今日だけで何回目かわからないため息をついて日向家に向かった。




*  *  *




「来たか、カカシよ」

「突然に申し訳ありません」



通された日向の客間。
そこに座る俺の向かいに、ヒアシさんが腰を下ろす。

日向宗家、当主。
木ノ葉最強と自負するのも納得がいくほどの貫禄とオーラ、それから無言の圧があって、どちらかといえばゆるい俺は正直この人が苦手だ。



「して、今日はどうした」

「…アスマに、悩みがあるならヒアシさんのところへ行けと言われまして」

「…ほう、アスマに、な」



少し考えるように腕を組んだヒアシさんは、自分の背後にあった引き出しの一段をおもむろにあさり、「これを」と一通の封筒を俺に差し出した。



「…これは?」

「ユウナから、お前への手紙だ」

「!」



受け取った瞬間にそう聞こえた声に、ぴたりと固まった。
なんでヒアシさんがこの手紙を持ってるんだ?あいつとなにか関わりってあったっけ?そんな俺の心情を察したのか、気持ち優しい顔をしたヒアシさんが口を開いた。



「先日の木ノ葉襲撃の折に、重傷だったヒナタの治療をユウナがしてくれてな。ヒナタの父として、床に臥していると聞き見舞いも兼ねて礼を言いに行ったのだ」

「…」

「私は何か力になれることがあればなんでも言ってくれと言ったのだが、あいつはそれを拒んでな。“当たり前のことをしたのだから、なにもしなくていい”と笑っておった」

「…あいつらしいです」

「だがそれでは私の気が済まんと食い下がった折に、ならばこれを預かってくれと差し出されたのがこの手紙だ。カカシが私の元へ来れば、それを渡してやってほしいと」

「そうだったんですか…」

「カカシよ。きっとこの手紙にはユウナのお前への想いが詰まっているはずだ。先ほど上忍衆がお前を六代目火影へと推薦したと聞いた。だが気に病むでないぞ。断るならそうしても良いのだからな」

「ありがとう、ございます…」

「もしお前がこの話を受けるならば、日向を代表して私もできることはさせてもらう。木ノ葉を大切に想うのはだれしも同じなのだからな」

「…えぇ」

「私からはそれだけだ。たしかに渡したぞ」

「はい、ありがとうございました」



ヒアシさんに頭を下げて日向を後にする。
ついさっきまで持っていたヒアシさんに対する苦手意識は不思議とどこかへ行っていて、なんだか心が軽くなってるような気すらする。それはヒアシさんから心強い言葉を貰ったからってのももちろんあるけど、きっとそれ以上に俺の心を満たしているのは、ないと思ってたユウナから俺宛の手紙があったからだろう。

ほんっと、あいつはこういうことが好きだよ全く。直接渡してくれればいいものを、わざわざアスマでもなくヒアシさんに頼むあたり、きっとあいつもしたり顔をしていることだろう。
くすくすと笑いながら、手紙の封を開けて読めば、今度こそ笑ってしまった。こりゃ、なんともあいつらしい。


その足で、そのまま先ほどシカクさんや相談役、重役などがいた会議室へ向かった。

もちろんその理由は、六代目就任を了承するため。
さっきまであんなに悩んでたくせに、あいつからの手紙を読んだだけでこんなにすぐ決心できるあたり、俺は自分が思ってる以上にあいつに惚れているらしい。



「カカシか」

「えぇ。先ほどのお話ですが、」

「決心が出来たか」

「…ま、仕方ないですよね。俺でいいなら、」

「失礼します!!」

「!」​



「謹んでお受けします」そう言おうとした俺を遮って飛び込んできたのはシズネ。その顔は、嬉しさや待ちわびたような表情を浮かべてるわけで。



「つい先ほど、綱手様の意識が回復しました!」

「!」

「カカシさん、一緒に来ていただけますか」

「…あぁ。では、この件は保留ということで」

「あぁ、それが良いだろう」

「失礼します」



シズネと一緒に頭を下げて、綱手様のいるテントへ向かう。
その道中に「ちょいとシズネ、これ見て」とユウナからの手紙を見せるとシズネは笑った。



「ユウナさんらしいですね」

「まったくだよ」




大丈夫。カカシならできる!




下手くそな笑顔がかかれたそんな一文だけの手紙に心踊ってる俺は、相当心酔してるらしい。



<カカシ聞こえるか>

「!…ヨクか」

<ユウナからの言伝だ。心して聞けよ>

「…」

<じきに、第四次忍界大戦が開戦される>

「!」

<首謀者は――うちはマダラだ>





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