大切なもの2

□それはどういった了見で
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「ハァ…」



なんだか脚が重いな。
突然ダンゾウに呼び出された。用件はユウナのこと。嫌な予感はしてたけど無視するわけにもいかなくて訪れた根の施設。数年ぶりに訪れたそこは相変わらず湿気臭くているだけでどんどん気分が滅入ってくる。
そして、散々待たされたのち現れたあの人に言われた一言で腹わたが煮えくり返ってる俺がいて。


『聞くところによるとお前、抜け忍のユウナと親しいそうだな。犯罪者を野放しにするとはけしからん。彼奴は里抜けした大罪人だ、木ノ葉にいるべき人間ではない』


そう抜かしたあの人を、つい殴りそうになった。
ユウナがどんな想いで里を出たと思ってるんだ。あいつはただ大切なものを守りたい一心で、苦しんで悩みながらひとりで全部背負って里を出たんだ。あんたにあいつの苦しみの何がわかる。あいつがどんな想いでここに帰ってきたかあんたなんかにわかるわけがない。

かといってあの人に手を出すわけにもいかず、返事もせずに根の施設を後にした。


重い脚を引きずるように向かうのは、なんでかやっぱりユウナがいるテント。ぱさりと入り口を開けると、布団の上で上半身を起こして何やら本とにらめっこしているユウナがいて。



「何してんの?」

「あ、カカシお疲れさま。いやね?アスマと紅に子供の名前をつけてほしいって頼まれてさ、サクラちゃんに頼んで本買ってきてもらったんだ」

「…そう」

「でもさ、名付けって難しいんだよね。悩むなぁ」



照れたように、でも誇らしげにそう言うユウナを見ると、さっきあの人に言われたことにまた腹が立ってきて思わず拳を握り締めた。



「ん?カカシ、どうしたの?なんか怖い顔してるけど」

「…いや、なんでもないよ」

「うそ。なんか隠してる」

「…なんでもないって」



さっき言われたことはユウナに伝える気はなかった。言ってしまえばきっとこいつはまたそれを背負いこんで今度はもう二度と帰ってこないようなそんな気がしたから。
だけど、苛立ってる気持ちがなくならないのもまた事実で。



「…ダンゾウに私のこと言われたんでしょ」

「!」



ぱたりと本を閉じてため息をつくユウナに目を見開く。
なんでわかるんだ?俺、何も言ってないのに。



「カカシがダンゾウのクソ親父に呼び出されたってのは知ってるよ」

「…」

「おおかた私のことでなんか言われて、それでカカシは怒ってるんでしょ?」



図星すぎて言葉が出ない。こいつ、こんなに鋭かったっけ?
俺を手招きしたユウナの言う通り横に腰を下ろすと、そんな俺をユウナはぎゅっと抱きしめた。



「!」

「ありがとう、私のために怒ってくれて」

「…っ」

「でもカカシが怒ることないんだよ。どんな理由があっても抜け忍なのは事実だし。ま、アスマたちにはそんなこと言うなって言われたんだけどね」



ははっ、と自嘲気味に笑うユウナに悔しさが滲んだ。
俺が不甲斐ないせいでこいつにまた苦しい思いをさせることになってしまった。ただでさえ負い目を感じているはずなのに、フォローしなきゃいけないのは俺なのに。
だけど、たぶん心の中で自分のことを責めているであろうユウナに救われてる俺がいて。抱き返しながら思わず言うつもりのなかった本音がぽろぽろと溢れてた。



「…腹が立ったんだ」

「うん」

「ユウナの気持ちを知りもしないのにのうのうとあんなことを言ったあの人が許せなかった」

「そっか」

「お前は犯罪者なんかじゃないのに」

「カカシがそう言ってくれるだけで救われるよ、ありがとう。でもね、さっきも言ったけどカカシが怒ることなんて何もないんだよ。わかってほしい人にわかってもらえてたら私はそれでいいから。本当にありがとう、だからそんな顔しないで」



そう言いながら俺の背中を優しく摩るユウナ。
ああ、安心する。この温もりを俺は求めてた。いつか昔にもこんなことがあったな。悔しくてやるせなくて、それでも泣けなかった俺を優しく包み込んでくれたのがユウナだった。後から思い返せば呆れて笑っちゃうほど泣いたっけ。



「…ユウナ、」

「ん?」

「どこにも行かないでくれ」



やっぱり情けないな、俺は。ユウナを繋ぎ止めることしか考えられない。いつまでも、お前には俺のそばにいてほしい。



「カカシ」

「…」

「…ごめん。それは約束できないや」

「!」



そんな言葉が聞こえてきて、空耳であれと願った。





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