大切なもの2
□じんわりとするむね
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「はい、いいですよ。さすがの回復力ですねユウナさん」
「ありがとう」
隣のテントから様子を見にきてくれたシズネに笑いかけ、めくった服を下ろしながら声をかける。
「ところでシズネ、綱手様の様子は?」
「…それが、一向に目を覚ます気配がないんです。ずっと眠ったままで」
「どんな感じなの?」
「百豪のチャクラを使い切って本来の姿に戻られています。たぶん今は無意識下でそのチャクラを補填してるとは思うんですけど…」
「…ねぇシズネ。私をそっちのテントに連れてって」
「え!?ダメですよ!ユウナさんだって相当危なかったんですから、まだ安静にしてないと!」
「大丈夫だって。ね、お願い!」
渋るシズネに手を合わせれば諦めたようなため息をついて、「まったく。相変わらずの頑固者ですね」そう言って隣のテントに連れてってくれた。
シズネの言う通り元の姿のまま眠りこける綱手様のすぐ横に腰を下ろす。そっと額に手を当てるとたしかに活発なチャクラを動きを感じた。
「うん、この調子なら1週間もすれば目を覚ますと思うよ。百豪の動きも感じるし」
「本当ですか!よかった…」
「念のために私にチャクラも送っておくよ。そしたらもう少し早く目覚めるかもしれないしね」
「そんなことしてユウナさんは大丈夫なんですか?」
「平気平気。私のチャクラ量が多いのはシズネも知ってるでしょ?」
「…まぁ、一応」
歯切れの悪いシズネの返答にまた苦笑い。ここは納得してもらわないとね。なんたってこの人はこの里の長なんだから。
ゆっくりと、少量ずつチャクラを流す。一気に流すと綱手様の体がびっくりしちゃうからね。
「…ユウナさん」
「ん?」
「本当にありがとうございました」
「…どうしたの突然」
「ユウナさんが帰ってきてくれなかったら、きっと綱手様はもっと無茶をしてたと思います。ユウナさんが帰ってきてくれたからこの程度ですんだと思うんです」
「…買いかぶりすぎだよ。私にそこまでの力はないし」
「何言ってるんですか!ユウナさんは私やサクラの姉弟子なんですよ?綱手様はユウナさんに全幅の信頼を置いて誰よりも大切に思ってます!ユウナさんが木の葉にいないと知ったときだって…」
そこで言葉を切って言いにくそうに口ごもるシズネ。
私が里抜けしたあと火影就任のために帰ってきた綱手様とのやりとりはカカシから聞いた。ユウナがそんなことするはずない、何かの間違いだと終始私を信じ続けてくださったらしい。
綱手様が師で本当に良かったって、心の底から思った。
「ね、シズネ」
「…なんですか?」
「私、綱手様の弟子でよかったよ」
「!」
「私は、綱手様みたいなくノ一になりたい」
おっきくてあったかくて、そして何もかもを包み込んでくれるようなそんなくノ一に。
「…何を言ってるんですか。ユウナさんはもう充分なってますよ」
「?」
「入っておいで」
突然入り口に向かってそう声をかけるシズネ。
なんだ、何事だ。そんなことを思っているとこちらを伺うように現れたのは懐かしい顔。
「お久しぶりです、ユウナ師匠」
「サキちゃん!」
3年前、私が里を抜ける直前まで修行に付き合っていたサキちゃんだった。
あのころはまだあどけなさが抜けてなかったのに、もうこんなに大人になってなんて思っちゃうほど綺麗になってる。そして何より、とても凛々しくたくましくなってて驚いた。
「彼女はサクラの指導係だったんです。私はもとより綱手様はお忙しい方なので、その時間ができるまでの代役といった形でですが。だからサクラに医療忍術の基礎を教えたのはサキなんですよ?」
「そうなんだ!へぇ、立派になったね!」
「いえ、そんな。私が医療忍者になれたのもユウナ師匠のおかげですから」
「…いや、あのさ?そのユウナ師匠ってのやめてくれない?なんかむず痒い」
そう言って頬を掻くと2人は顔を見合わせてくすりと笑った。
「サキちゃん」
「はい」
「サクラちゃんを育ててくれてありがとね。あの子も立派になってて私嬉しかったよ」
「何をおっしゃいますか。元を正せばユウナさんのご指導のおかげですから。それに、たしかにサクラちゃんはいい素質を持ってましたけど、あの子ずっと言ってましたよ」
「?」
「ユウナさんみたいなくノ一になりたいって」
「!」
サクラちゃん、そんなこと思ってくれてたんだ。
サクラちゃんはとても優しくて、それでいて強くて賢い子。いろんな可能性を秘めてたあの頃のサクラちゃんにそんな風に思ってもらえて、嬉しいような照れくさいような。
「ユウナさんがいなくなったすぐあとにうちはサスケも里を抜けて、サクラは自分にできることがないか考えたみたいなんです。そんな時に浮かんだのがユウナさんだったって前に言ってました」
「…そう、なんだ」
「どうしたらユウナさんみたいになれるかって、それがサクラの口癖で。どうやったらユウナさんみたいにいろんな意味で強くなれるのかって。そればかり私に聞いてくるんですよ」
「困ったもんです」そう言って、でも誇らしげに笑ったシズネ。
私が綱手様に憧れたように、サクラちゃんは私に憧れてくれてたんだ。私なんて大罪人なのに、それでもカカシやナルトと一緒に必死になって帰ってきてくれって言ってくれてたなぁ。そんなことを思い出してなんだか泣きそうになった。
じんわりとするむね