大切なもの2
□なんで、どうして
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「…だから言ったでしょ。その眼はあんまり使わない方がいいって」
「…」
サスケと一緒に暁のアジトに飛ばされて、眼の治療をしながらため息を吐いた。
眼から流れた血の跡もあるし、きっと今日も酷使したんだろう。それにこの間見たときよりも視力が低下してる。いつもの綺麗な黒い瞳も、白がかってて濁って見える。治療とはいっても今ある視力を保つことしかできないのがもどかしい。万華鏡写輪眼。強い力ではあるけどそのぶん代償も大きいってことか…。
「イタチくんも、あんたと同じように視力が落ちてったんだよ。でもイタチくんがそうなった理由は、あんたみたいに戦うためだけじゃなかった」
「…」
「あんた知ってる?イタチくんは、あんたが里を抜けた後に何度かナルトと会ってるんだよ」
「!」
眼一帯を包帯で結んでるサスケは、そのまま驚いたように私の方を向いた。そこにチャクラを当てながら続ける。
「何が目的かは知らないけどね。でもきっと、あんたに関することなんじゃないかな」
「…」
「リスクを冒してでも、あんたのことをナルトに託したかったんだろうね。自分の運命の先を知ってたから、イタチくんは」
「…っ」
「あんたと戦って、自分より強くなったあんたの手にかかることをイタチくんは望んでた。病気の進行を遅らせてでも、あんたの復讐心を晴らしたかったんだよ」
「…」
「あんたを守るために、三代目に志願してうちは残滅の任務を遂行した。イタチくん以外がこの任務を受けてたら、あんたはきっと今ここにはいないだろうね」
「…」
「自分の人生を犠牲にしてでも、あんただけは生かしたかったんだよ。あんたの人生だけは、誰にも邪魔させたくなかったんだ。でもそれと同じくらいイタチくんは木ノ葉が大切だった。そのどっちもを守るには、自分が汚名を着る方法しか浮かばなかったんだよきっと」
「…っ」
「…ここまで聞いても、あんたはまだ木ノ葉が憎い?」
眼に当てていた手を離して、サスケの顔をじっと見た。
眼が見えないからその表情は読み取れないけど、きっと今この子の心はまた揺れているだろう。
自分を守って濡れ衣を着たまま亡くなった兄の敵であるダンゾウを討って、次に自分が標的にしているのは、その兄が自分と同じように汚名を背負ってでも守りたかった大切な里。その守りたかったものが守りたかったものを壊そうとしている。…イタチくんは絶対、こんなことを望んでないんだよ…サスケ。
「…あんたは」
「…」
「あんたはなんで、そこまでイタチのことを考えるんだ」
「…?」
「あんたとイタチはたまたま同じ時に暁にいただけの関係だろう。なのになんでそこまであいつのことを考えられるんだ」
「…そうだねぇ」
サスケにそう言われて考える。
たしかに、私とイタチくんはそこまで親しかったわけじゃない。たまたま暗部のカカシの隊にイタチくんが入って、その関係で少し話すようになっただけ。私が綱手様との修行で里を出てる間に、イタチくんはあの事件で里を抜けた。だから暁に入るまではあんまり話したこともなかったんだ。
でも、しっかりイタチくんと話すようになって、なんだか自分と通ずるところがあるような気もしたわけで。
「形や行動は違っても、私とイタチくんの“大切なものを守りたい”って想いは一緒だったんだよ」
「!」
「自分にとってかけがえのない大切なものを守りたかったから、私もイタチくんも里を抜けた」
「…」
「…でも、私なんかよりイタチくんのほうが苦難の多い道だったと思うよ。私なら、自分が守りたかった弟が自分を憎んで殺そうとしてるなんて、死ぬよりもつらいもん」
「…っ」
「どんどん病気が進行していって、薬と治療がなかったら生きられないような体なのに、あんたと戦ってイタチくんは逝った」
「…」
「あんた言ってたよね、イタチくんが最期に笑ったって。それが全ての答えだよ」
「!」
「苦しみしかない道の中に、イタチくんは少しの希望を見出したんだ。それはサスケ、あんたが自分を超えるほど強くなってくれること」
「…っ」
「だから、ある意味でイタチくんは、あんたに感謝してる部分もあるんじゃないかな」
そう言って、サスケの頭にぽん、と手を置く。
茫然と座り込んだままのサスケに苦笑いして、「しばらく安静にしててね」と背を向けた。
きっといつか、ナルトやサクラちゃんやカカシや、イタチくんの、サスケを想う素直な気持ちが届く日が来る。それまで、どうか、これ以上なにも起こりませんように。
「ユウナ」
「!」
サスケのいる部屋を出てすぐ、私に声をかけたのはマダラ。本当こいつ、なんでいつも突然現れるんだろう。
話がある、というマダラについていけば、アジトの中のマダラの部屋に通される。
「ユウナ」
「…」
「お前は、この世界をどう思う」
「…?」
そんな突拍子もない質問に何も返せないでいると、私に背を向けたままのマダラがぽつりとつぶやく。
「…俺はこの世界が、この時代が憎くて仕方ない」
「…」
「人々がたくさんのものを失い、悲しみ、嘆き、痛みに苦しむこの時代が憎くて仕方ない」
「!」
そういうマダラの背に、なにか感じるものがあった。
既視感っていうか、マダラは相当昔の人物だから会ったこともないはずなのに、どこかで昔に会ったことがあるようなそんな不思議な感覚。
「俺は、そういう痛みのない世界を作りたい」
「…」
「人々が苦しむことのない世界を作りたいんだ」
「…」
そしてなんでかわかんないけど、そう言うマダラの意見に同調している私がいる。
気持ちは、凄く、嫌って程わかる。私のようにたくさんの大切な人を失ったり、失わせることになったり、この世界にこの時代で生きていればそういうことはもう嫌って程ある。
それがないなら、そんな世界もいいのかもしれない。だけど、問題はそのやり方で。
痛みを痛みで制するじゃないけど、同じようなことをして、人そのものを消すことで痛みをなくすっていうなら私はこいつの意見には賛成できない。あくまで人は人として、この世に生きとし生けるものとして、そして痛みを感じずにすむんなら。それに越したことはない。
「俺はその方法として、まずは第四次忍界大戦を起こす」
「!」
「そしてこの世界を、無限月読にかける」
「…無限、月読?」
耳慣れない言葉に思わず眉を寄せて復唱すると、マダラはくるりと振り返る。
「俺の眼と月によって生み出される、世界規模の幻術、それが無限月読。月読世界ではこの世で生を終えた者も生き、自分にとって大切だった人が全員生きている、そんな世界」
「…」
「それが俺の、“月の眼計画”だ」
「!」
仮面の奥にあるマダラの左目が、深紅の写輪眼になっている。途端に私の背筋に過ぎるのは悪寒。
要は大戦を起こして、この世界一体を何らかの方法で月読にかけるってことなのかな。そんなの許せるわけない。苦しみのない世界がみんなの夢の中での世界なんだとしたら、そんなのはまやかしだ。現実の、今のこの世界でできないなら、それは痛みがあるのと同じこと。
眼を見開く私にマダラはなぜだか薄く笑い、ゆっくりと上げられたその手は仮面へと伸びる。
「…久しぶりだな、ユウナ」
「!!」
かちゃりとはずれた仮面の下には、ここにいるはずのない、懐かしい友達の顔があった。
なんで、どうして