大切なもの2

□暗黙のピースサイン
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「…これは、俺の役目だ」



どうにかして説得しようとするナルトを制して、サスケと睨み合う。

サクラが決死の覚悟を決めてサスケを始末しようとして、返り討ちにあいそうになったのをナルトが助けた。俺はすでにサスケと対峙していて、サクラを止めようとしたが手が届かなかった。ナルトがこなかったときのことを考えるとゾッとする。やっぱり俺は、無力だ。

サスケが里を抜けたのも、上官である俺が不甲斐なかった結果。なら俺がその始末をつけるべきなんだ。こいつらにサスケはきっとやれない。なら、師である俺が、するべきなんだ。


右手に、本気の雷切を発動させる。サスケも同じように、左手に千鳥。チチチ、と二つぶんの雷の囀りが響く。
かつて俺が教えたそれも、今はきっと俺以上の力になってるだろう。よくて相討ち、結果はそう見えた。



「おまえらは帰れ。ここにいれば見たくないものを見ることになる」

「…カカシ先生…それって、サスケを殺すってことか…?」

「…」



昔よりずいぶん頭のキレが良くなったナルトが、俺の後ろでぐっと拳を握るのがわかった。


ナルトとサクラと同じように、俺もサスケのことが大切だ。だからこそ、うちは再興を求めるために仲間や木ノ葉を潰そうと目論むこいつを今ここで、俺が、消す必要がある。


マダラと名乗った男から、うちは残滅の真相を聞いた。
イタチがサスケを殺せなかった理由も、ユウナがあの日うちはの跡地で涙を流していた理由も今ははっきりとわかる。イタチはサスケのことを守りたい一心で、自分を憎むことになっても生かしたんだって。イタチの死後、おそらくマダラに真相を聞いたサスケは、亡き兄の仇であるダンゾウをここで始末した。それがうちは再興に繋がる一歩だと思ったんだろう。

でも、サスケ。そうじゃないんだよ。
お前がやるべきなのは、イタチの敵討ちでも復讐でもなく、こいつらを…ナルトとサクラを、信じることなんだ。


でも今俺がそう言ったところで、復讐に心を奪われているこいつには届かない。きっとここで俺たちを殺して木ノ葉へ向かうだろう。だから今、俺がここでケリをつける。ナルトとサクラを苦しませることになるけど、きっとこいつらは俺を恨むだろうけど、それでもいい。これは、師である俺が担うべき荷だ。

ユウナ、ごめんな。おまえを木ノ葉で待ってるつもりだったんだけど、ちと状況が変わったよ。おまえにはまたつらい想いをさせることになるけど、俺は一足先にオビトたちの元へ行く。おまえのことは、ずっと、空から見守ってるからな。

ずっと、大好きだ。



〈待てカカシ、早まるな〉

「!!」

「…悪ぃ先生、俺がやる」

「っおいナルト!!」



突然脳内に響いたヨクの声で俺に生まれた隙に、後ろからナルトに羽交い締めにされて代わりにあいつが突っ込んでいくのが見える。それを見たサスケも同じく飛び出した。

サスケの手に光る千鳥と、ナルトの手に輝く螺旋丸。
二人の距離がどんどん狭まる中、その光景が俺にはスローモーションに見えてきつく目を閉じた。


やめろ、やめてくれ…。
俺の大切なものを、これ以上奪わないでくれ…!



「おりゃぁああ!!」

「!」



真っ暗な視界の中で、突如響いた雄叫び。
ハッとして目を開けると、ナルトとサスケの術がぶつかり合うはずだっただろう場所にはユウナがいて。もっと言えば、そこには大きなクレーターが出来ている。ユウナが2人を助けるために地面を殴ったんだろう。いつかのナルトと同じようなド派手な登場に、こんな状況で口をあんぐり開けてしまう俺がいるわけで。



「…何考えてんのあんたらは」

「!」

「あんたに言われる道理はない」

「自分たちはいいかもしんないけどサクラちゃんの気持ちを考えな」

「…っ」



ユウナの言葉にハッとしたナルトが見ると、唇をグッと噛み締め耐えるサクラがいた。



「…サスケ、私何度も言ったよね。まだわかんないの」

「あいつから兄の事件の黒幕を聞いた。そいつをここで始末してたらこいつらが来たんだ。俺は知らん」

「だからって手を出す理由にはならないよね」

「…」

「それにあんた…もう、ほとんど見えてないでしょ」

「!」

「だからあれほど言ったのに。万華鏡写輪眼は…」

「もういい、よせユウナ」



空間の歪みから現れたマダラに場の空気が凍る。
俺を羽交い締めにしたナルトの影分身もその圧に負けてボンッと消えた。



「ここはもう用済みだ。サスケの回復もある、お前も一緒に来い」

「…」

「っおい待て!」



サスケと一緒にマダラに連れられ空間の歪みに消える時、ユウナは薄く笑い、読唇術でこう告げた。



――だいじょうぶ



いつかのデジャブのように、伸ばした手は空を切る。
でもやっぱり俺の心を占領するのは、なんだか満たされていく気持ちだけで。

あいつはもう、独りじゃない。俺達と同じ想いを一緒に抱いてるんだ。
そう思えば、たとえ離れていたとしても乗り越えられる気がした。



「…先生、ユウナの姉ちゃんってば、」

「…あぁ、あいつに任せておけばサスケも大丈夫だよ。よしナルト、サクラ。木ノ葉へ帰るよ」

「…先生、俺ってば、ユウナの姉ちゃんだけにサスケのことを任せたくねぇ」

「…ナルト、」

「姉ちゃんってば今までずっとひとりで木ノ葉と綱手のばあちゃんを守って、そんでサスケのこともどうにかしようって頑張って、木ノ葉が危ねぇときはすっとんで帰ってきたろ。なんで姉ちゃんばっかがこんな苦しい想いしなきゃなんねぇんだよ」



そう言って、ナルトは悔しそうにぐっと拳を握る。



「なんで、なんで姉ちゃんはひとりで頑張ろうとすんだよ。姉ちゃんには俺もカカシ先生もサクラちゃんもいんだろ!なんでひとりでどうにかしようとすんだよ!」

「…ま、そう言うなナルト」

「先生ってば悔しくねえのか!好きな人がいろいろ抱え込んでんのに!」

「そりゃ悔しいさ。俺に何かできることはないかってずっと考えてるよ」

「そんじゃあなんで…」

「でもあいつは、自分がひとりで戦ってるわけじゃないってわかってる」

「!」

「!」



俺がそう言い切ると、ナルトだけじゃなくサクラも目を見開いた。



「お前もサクラも、もちろん俺もサスケのことを連れて帰りたいってこともわかってるし、あいつ自身もそう思ってる。でも現実的に考えて、敵である俺たちがそう簡単に暁に近づけるか?」

「っそれは…」

「その点あいつは一応暁の一員だ。俺達よりもサスケのことを助けられる可能性がある。違うか?」

「それは、そうだけどよ…」

「大丈夫だ。俺もあいつをひとりにするつもりはないし、あいつも必ず木ノ葉へ帰ってこられるようにするから」

「…」

「そう気負うな。俺を信じろ、ナルト」

「…おう」



納得いかなそうに唇を尖らせながらどうにかうなずくナルトの頭にぽん、と手を置く。
いつの間にか大きくなってるよなこいつも。この前もそう思ったけど、こういうときにはよりそう思う。物理的なことだけじゃなくて、精神面でも大人になってきてる。俺はおまえが誇らしいよ。



「…それから、サクラ」

「!」

「もう二度と、あんな無茶なことはするな」

「…っ」

「分かったな?」

「…はい」



自分の気持ちを犠牲にしてでもサスケを手にかけようとしたサクラの覚悟は決して容易に決められるものではない。この子も、いろんな意味で成長してるよ。





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