妄想部屋

□2人の夜は更けていく
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「マヤ、先にあがったよ。ゆっくり風呂に入って疲れを癒しておいで。」

真澄は優しくマヤに声をかけた。

2人の結婚生活は二年目を迎え、順調に仲睦まじく暮らしている。

とはいえ、真澄は仕事で帰りが遅くなる事も多い。

一方マヤも、舞台で地方に行き、家をあける事が少なくない。
舞台のない期間も、ドラマや映画の撮影で帰る時間は不規則だ。

必然的に普通の家庭と比べ、夫婦でゆっくりと過ごす時間は少ない。

しかし今日は、お互い夕方には仕事を終える事が出来た為、久しぶりに水入らずで過ごせる貴重な夜だ。

ゆっくりと、夕食を摂りながら会話を楽んだり、食後のコーヒーを飲みながら、新作の映画を鑑賞したりと楽しいひと時を過ごす。

「は〜い。それじゃあ、お風呂いただいてくるわね。」

夜はまだまだ長い。真澄はこれからの時間に、あれやこれやと期待を膨らませつつ寝室に向う。

2人の寝室の中にはドアが二枚設置されており、お互いのウォークインクローゼットへと繋がっている。

真澄は自分のクローゼットに入ると、金庫から怪しげなラベルを貼った小瓶を取りだした。

ラベルには、そのものズバリ媚薬と書いてある。

再びリビングに戻ると、マヤが入浴している間にマリネしたパプリカやチーズなど簡単なつまみを準備する。

ワインセラーからムートンロートシルトを取り出し、ワイングラスに注ぐ。

長い時間をかけ熟成し、菫の様な芳香を楽しめるこのワインは2人のお気に入りだ。

「あ〜気持ち良かった!」

バスローブ姿で、頬を上気させたマヤがバスルームから現れた。

上気した頬。ちらりと見える白い胸元。そして、ミネラルウォーターを美味そうに飲む艶やかな赤い唇も、人妻の色気が加わりなんとも艶かしい。

「マヤ、ワインの用意が出来ているよ。髪を乾かしておいで。」

そのままバスローブのみを纏った姿態を愛でたいところだが、大事なマヤに風邪をひかす訳にはいかない。

「はーい。部屋着に着替えてくるね!」

マヤは無邪気に跳ねるよう寝室に向かった。

その間に真澄は、マヤのグラスの中に金庫から取りだした小瓶の液体を数滴垂らす。
用を終えた小瓶は取り敢えず、キッチンの引き出しに隠す事にした。

(今夜が楽しみだな…。)

口元が自然に緩む。

夜の生活に関しては、マヤは未だ初心なままだ。
恥ずかしがるその姿も、実に真澄をそそるものがあるが、マヤの乱れる姿も見て見たい…。

その欲求が、仕事中に思わず怪しげなアダルトグッズ購入サイトにアクセスするに繋がった。

あげくの果てには、郵便局留めでグッズを購入し、聖に取りに行かせるという愚行までおかしている。

勿論、購入者名も聖唐人だ。
聖にとっては甚だ意に沿わない裏の仕事が増えている。

少しづつ集めた真澄のコレクションは、クローゼットの金庫で使用するその時を、今か今かと待っていた。

マヤが戻る間、手持ち無沙汰な真澄はベランダに出て煙草をふかす。
最近はマヤへの副流煙の弊害が気になり、極力ベランダで煙草を吸うようにしている。

「真澄さん、吸いすぎはだめよ?」

髪を乾かし部屋着に着替えたマヤが、真澄に声をかけた。

2人はリビングに戻るといつもの定位置に座り、お互いのグラスを手に取るとゆっくりと香り高いワインを楽しんだ。

(そろそろかな…?)

若干マヤの首筋がピンクに染まり、目が潤んでいる。

「少し酔ったかも…。」

その様子に真澄の体温も上がり、身体が熱っぽい。たいした量も飲んでいない筈なのに心拍数が上がる。

「そろそろベッドに行くか?」

真澄は期待に胸と股間を膨らませつつ、マヤを寝室に促した。

「ちょっと待って!真澄さん、凄い鼻息荒いし…顔も赤いわよ?あれぽっちのワインで酔うわけがないわよねぇ〜。」

マヤがじっとりとこちらを眺める。

「…ワインになんか仕込んでるじゃない?」

ギクリ。何故マヤがそんな事知ってるんだ!

「何を言ってるんだ!マヤ、俺がそんな事する訳ないだろ!」

「ふ〜ん…。じゃあ、真澄さんがベランダに居る間に、ワイングラスを交換しといたんだけど…問題ないって訳ね。」

「…ッ!ハハハ…も、問題ない!」

あまりの衝撃でどもりつつも、真澄は疚しさから、つい意地を張る。

(まずい…。熱い。身体が火照る。とりあえずサッサとベッドに誘ってこの火照りを鎮めよう)

気がつけば、マヤが冷たい視線で真澄の股間を注視している。

真澄は慌てて、頭の中に冷静になれる映像を浮かべる。

(池に浮かぶ紫織さん…ダメだ。仕事の書類。治らん。桜小路の太い眉毛。これでもダメか!よし、聖の裸体だ!まずい!…ますます興奮してきたではないか!)

「あたし、今日はしたくないからね。」

マヤは冷たく言い放った。

「おいおい!今日はせっかく2人きりで過ごせる貴重な夜なんだぞ!」

「水城さんから、変な話聞いたんだもん。社長室にコーヒー持って入ると、最近パソコンを慌てて閉じるって。
チラッと見えた画面がアダルトグッズのページだったから、『マヤちゃん、気をつけなさい!』って、そりゃあ警戒しちゃうわよ!」

マヤは続ける。

「オマケに、夜遅く帰ってきた時も、あたしが寝てるの確認して、コソコソと箱を持ってクローゼット行くじゃない?」

「起きてたのか⁉」

「時々ね。しかもあたしが起きてる時に帰って来ても、ダンボールを持って『仕事の書類だ』なんて金庫に入れに行くじゃないの!
いくらあたしがバカだって、Am◯zonの段ボールに書類入ってるなんて思わないから!」

形勢が悪くなってきた。

「だからと言って、俺がマヤのワインに何か仕込んだ証拠にはならないからな!
アダルトグッズのサイトも、ちょっと暇つぶしに見てただけだ!水城君もいい加減な事をマヤに吹き込むなんて、失敬なヤツだな!
まぁ、いいじゃないかマヤ…。そんないい加減な話はこの際無視して、仲直りしよう!」

段々と切羽詰まってきた身体を持て余し、早々と話を打ち切る。

「まーだ、シラを切る気ね…」

マヤの口調が剣呑になってきた。

「さっき、着替えに行った時、真澄さんのクローゼットの金庫から、変なラベルの茶色い小瓶が消えてたんですケド。あれ、どこやったの?」

「何だって!君!暗証番号はどうした!」

「真澄さんの脳内にある事なんて、キモい事ばっかりじゃない!キモい数字思いつくまま入れていったら開いたわよ!」

暗証番号…0721

真澄は黒目を飛ばし、暫し固まった。

「とりあえず、今日は真澄さんとしたくない!しかもおかしな薬でハァハァいってる真澄さんとするなんて、人知を超えた変態行為になるに決まってるじゃない!」

マヤはおもむろに真澄の両手を取ると、金庫のコレクションから拝借した手錠を真澄にかけた。

「もしやと思って隠し持ってたんだから!こうでもしないと、レイプされちゃうわ!」

(お仕置きか…。マヤ、お仕置きなのか…?)

「マヤ…俺は今からどうなるんだ…?」

「ベッドにいって、朝までゆっくり寝るに決まってるじゃない。別に真澄さんはここで寝てもいいけど…。どのみちその手錠は朝まで外さないからね!」

プンプン怒るマヤの背中を追いつつ、真澄も寝室に入った。

「おやすみ!真澄さん!」

ベッドに入りマヤは冷たく言い放った。

「マヤ〜…。済まなかった!頼むから何とかしてくれないか⁉」

半ば懇願する真澄にマヤは冷たい。

「いやよ!これに懲りたらこっそり、あたしに内緒で変な道具使おうなんて思わないでよね!」

ああ、今夜は本格的な放置プレイになりそうだ…。

「なら、マヤ…例のアレ…例のアレを久しぶりに言ってくれ…」

真澄は床できちんと正座し直すと、美しい顔をキリッと上げ、ベッドのマヤに視線を向けた。

「ゲジゲジ…」

(うっ…。)

マヤの表情は冷たい。その冷たい表情が、真澄の下半身に言いようの無い刺激を与える。

「嫌み虫…ゴキブリ…」

(ああ!堪らない!ゾクゾクするっ!)

懐かしいマヤの罵りの言葉に真澄の長かったエアセックスプレイの日々が蘇る…。

「この変態!!」

マヤが心底軽蔑した面持ちで罵声を浴びせる。

「ヒィィィ〜〜〜〜ッ!!」

真澄はカッと目を見開き、真っ白な世界に身を任せ果てるのであった…。



fin

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