□疑惑と逃亡
2ページ/3ページ






さて、いま僕はどこにいるでしょう
正解はーーー?
とあるビルの屋上!

なんてことやってる場合じゃないけど、久しぶりの1人は心細い
それに、ここで僕が余計な一手を入れることが正しいのか分からない

と、まぁネガティヴになりつつも双眼鏡でずっと倉庫を見張ってる


『あ、来た、1、2、…5人?
幹部を捉えるには少ないだろ』

でも、それ以上増える様子もない
しばらくして取引場所の倉庫に入っていくライも確認できた
時計を確認すると、取引時間も迫っている
諸星大に渡した通信機には一応手紙もつけておいた


ー貴方の力になるためにこれを渡します
小童の力なんて借りたくないというならそれでも構いませんが
こちらはいつでも準備をしています
それと、これは遺品の一つなので無闇に捨てたりしないで下さいね



まぁこのタイミングで遺品といえば理解できると思う
指紋とかは特に消してないから、万が一組織の手に渡ると困る
それに、組織で解析されれば対になっているこっちも見つけられる可能性があるし


『…行くか』


ここからだと誘導には最適でも、最終手段のルートは使えない

逃走経路として、最終ポイントとなる場所に向かう
倉庫を見ることはできないけど、ちょっと監視カメラに細工させてもらったから誘導くらいは問題ない

ちなみにこのスキルはバーボンに叩き込まれた
3日という短期間で…

適当にあった台に端末を置き通信機の最終確認をする
暫くして、受信信号がきた

【これはお前の考え通り、か?
可能なら誘導を頼む】

少し焦った声
久しぶりに聞いた

『概ね予想通り
細かく行くから、一つとして聞きもらすな
ライなら(赤井さんなら)できるだろ?
というか、ミスったら僕も貴方もおしまいだ』

【了解】

さぁこれから大仕事だ
パソコンに映る大量の小さなウィンドウを見ながら指示を出していく

二つ先の角を曲がったら待機
5秒後にそのまま直進
次の角を右、20秒したらもう一度出て反対の道を20m

一つも漏らさず
こんなに頭を使うのはいつ以来だろう

(おかしい
こっちの行動が読まれているかのような動き
でも今動けるハッカーはいないはず
いたらもうアウトだけど)

その時メールが入った

『…そこの倉庫で待機
鍵は閉めず、誰か入ってきても絶対に動くな
少し整理する』

メールを開くと、内容はライがノックであり、近くにいるなら手を貸せと
珍しいこともある
あのジンが他人の手を借りようとするなど

『いや、僕のことも疑ってるのか
どこかの組織に入ってるように見えるのか?』

端末でジンに電話をかける

【なんだ?】

【監視カメラを取った
今いる場所は○○番
いらないならライが消えるまでここで大人しくしてる】

【…そこにいろ、万が一逃したらそこをやつは最後に通るからな
お前の手であの世に送ってやれ】

【不殺のカベルネにそれを言うか
いや、分かった】

これで、ジンの動きは予測がつく
最終ポイントまでは来ない
端末を回収してさっきジンに言った倉庫へ向かう
自分が向かいながら、ライにもそこに向かう道を教える
ライがその倉庫に入ってきたのは、僕が端末の履歴を全て消した直後だった


『ライ、いや、赤井秀一…
よく僕を信用したな
ま、そうじゃなきゃ貴方はいまここに生きてはいないだろうけど』

「カベルネ
ここは、この辺りの出口だな
これで鬼ごっこは終わりか?」

『ああ、鬼ごっこは、な
だけど僕まで疑われてるみたいだから、少し貴方に罪を被ってもらう
ここまで誘導した代金だと思えよ?』

ここで僕は赤井秀一に会う予定はなかった
これは僕が、あたしが考えた中で最悪のシナリオ
だけどほぼ確実に助かる唯一のシナリオ

「お前が、疑われて…
…ミナト、俺と一緒に来ないか?
お前1人くらい、組織の目から隠すことはできる」


『……僕の名前はカイだ
誰かと間違えるな』

ミナトはここにいない
いてはだめ、逃げたくなってしまうから

『ん?あぁ煩いなぁ、ライ、ちょっと黙ってて』

無視していた電話が再びかかってくる
相手は見ずともわかる

【おい、ライがそっちへ向かった
お前の手で始末しろ】

ああ、やっぱり
僕を不殺のままにはしてくれない
けど、あたしには出来ない
人を殺す?そんなこと出来るわけない

『【やってみるけど、期待はするな
僕は人を殺すつもりで撃った事ないからな
ああ、下手に近づかないで
自分で全うしてみせる】
…さて、赤井、今のはジンからです
貴方を殺すように命令された
けど、人を殺したことはないし、これからもするつもりはない
だから、今から言うことをちゃんと実行して
そうすれば2人とも助かる
貴方が出来なければ、親しかったあの人達も危ない』

そして、考えていた最善で最悪を伝える

「お前が逃げ切る確率は?」

『…やれ、赤井秀一』

流石の赤井秀一でも無理なのかな

監視カメラは中にはない
けれどこの倉庫が映る位置には一台ある
そろそろ正常に動き出すころだ

つまり、ここから二人が一度に出ることは不可能
かと言ってこの人を無傷で出せば僕が疑われる

僕が生き残る確率ははっきり言ってかなり低い
だけど、それを伝えたところで意味はないし、おそらく僕はこんなところで死ないはず
まだ、始まってもいないのだから

『僕はもう光の中で生きられない
なら、あんたの敵なんだよ!』

こっちから数発、服を割く程度の銃弾をお見舞いしながら物陰に隠れる
出口は赤井のほうに一つ

ここは既に僕が用意しておいたフィールド
最終手段の準備も済ませてある
細かい計算をしたわけじゃないし、運に頼る部分も大きいけど

物陰に隠れた後、僕はすぐにそこを狙う
そして3回目、望んでいたそれは起きた

『っい』

爆風に吹き飛ばされた体は積みあがっていた物に叩きつけられた
けど、ここで気を失えば待っているのは死のみ

爆発が起きたのは一度だけだった
だけどそれで充分
ここにあるのは木材と油

瞬く間に火は燃え上がった

物陰から少し顔を出すと、彼はまだそこにいた
炎で境界線が引かれる
あちらとこちら、決して踏み入れられないような線が

彼の背後に出口があるのを確認してさらに倉庫の奥へ進む
自分の逃げ道くらい、確保してある

けど、誤算だった
こんなに火の回りが早いなんて

上から大きな音とともに屋根が落ちてくる
さらには積みあがっていた木材も倒れる

あたしは急いだ
ようやく見つけた出口から外へ踏み出した瞬間
背後で再び爆発音がしたと思ったときには体は外へ投げ出されていた

ここから少しでも離れなければ
そう頭ではわかっていても、もう動ける力は残っていない

そして、意識は闇に飲まれていった





.

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ