□混乱
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いま、なんて言った?
守るべきなのが、ミナト?

宮野姉妹じゃなく?


『ふ、ざけるのも、大概にしろ
ミナトを守って何になる?
いや、それよりも明美は?
諸星大の彼女で、組織の末端
いつ殺されてもおかしくないんだ』

「明美はすでに俺がFBIだと知っている
利用されたという事も
さらに言うなら」


あぁ、あのときにはもう、明美さんは知ってたんだ
知ってて、今を楽しもうとしてた?
2人での未来はないと分かってて
だから、あんなに元気がなかった


『………げん…しろ』


『いい加減にしろ!
お前の勝手で、明美さんを巻き込んで!
それで、ただ利用しただけ?
巫山戯るな!
明美さんが、それで納得したと、本当に思ってるのか!
人の感情を、道具にして、っ』


こんなに声をあげたのはいつぶりだろう
この世界に来てからは、してない

これでちょうど良いかもしれない
これ以上、この人の近くに居たくない
ミナトが、そう思っている

明美さんに何も感情を抱いてないと知ってホッとしてる
そんなのおかしい
"僕"は彼女を応援してるんだ

こんな感情、知らない
けど、知識として知っている
気付きたくない、だからその前に離れる


「ミナト」

『出て行って
そして、その名前を2度と呼ぶな
僕はカイでカベルネなんだ
これ以上、あなたに声を荒げたくないんですっ
頼むから、出て行って!!』


赤井さんが少し戸惑って、それでも、部屋をあとにしてくれた
あぁ、お礼、言ってないな

赤井さんが出て行った扉を見続けていると、頬を温かいものが伝った

あたしは、それに気づかないふりをして
拭いもせずに、ベッドに潜り込んで
枕に顔を埋めた

自分の感情 自分が何をしたいのか分からなかった
ただここから逃げたかった

枕の下では
ただひたすら 腕輪を握っていた
トキに繋がらないか
罰を犯したあたしを連れ戻してくれないか
そう、考えて ずっと呼びかけて
でも、返事はない
諦めて枕から顔を離したときには部屋が明るくなっていた


『…今日も仕事、あるか
ライに、運んでくれた礼、だけ、伝えよう』

ずっと涙を流していたせいで重くなった体を無理やり起こし、パソコンを起動させ、ライにメールを送る
カベルネとして、運んでくれた礼だけを簡潔に

携帯はメモリーを抜き取って破壊する
折角スコッチが行った偽装工作に僕のところで綻びを出すわけにはいかない
かと言って携帯を買い換えたら目をつけられるかもしれない
スコッチに習った技術がこんなところで役に立つとは思わなかった
メモリーの抜き方なんて"あたし"は知らなかった

彼は僕に機械の扱いから銃の扱いまで、組織で生きていくのに不自由しないことをほとんど教えてくれた
今となってはその行為のどこまでが指示で、どこからが彼なのかはわからないけど


『スコッチ、結局あたしはあなたの名前を思い出せなかったよ
今までありがとう、そしてさよなら』

あのビルに行くのも無理があるから、ただつぶやく
この世界に来てから人の死を嫌という程見てきて、スコッチの死だけ悲しむ、というのも変な話なのかもしれないけど


『あと何年か耐えれば良い』

自分でも不思議なほど、組織にいることに違和感を感じなくなったのはいつだったか
前にいた世界で人でない、と言っても斬り合いをしていたことが関係しているのかもしれない

あたしは、僕は昨日ライに言われたことを無理やり頭から消して、今日の任務に向かった






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