□混乱
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目がさめると天井が目に入った

少し首を回し、ここが組織にある自分の部屋だってわかる
開け放しの窓から今が夜中だって分かった

あぁ、あたしはあのまま倒れたんだ

少しずつ記憶が戻るに連れて顔が青ざめていくのが分かった

あの時は気付かなかったけど、あたしは何を言ってるんだ
しかも、最後に赤井さんって呼んだ気がする…


『死にたい、消えたい、いなくなりたい』

「それは勝手だが、知ってることを吐いてからにしてもらおうか」

『あっライ?!
い、今の聞いてたの、か?』

驚いて飛び起きなきゃよかった
そしたら布団に包まって隠れられるのに
今度こそ死にたい
いっそトキに強制的に連れ戻してほしい
しかも今あたし、赤井さんって呼びそうになった

とりあえず何か
…そういえば、物語として死ななければならなかった彼は
あの後どうなったんだろう
バーボンが引き取ったのかな
スコッチには家族がいたはずだから、彼が最後には帰れているといいんだけど


『スコッチ、は?
組織の裏切り者として処分されたの?』

「バーボンがあの後を引き受けたからな
彼が処分しただろう
もともと彼は事後処理役が多かったしな」


あぁ、なら公安に帰れたかな
あたしの中で、彼はもう物語にいた1人というだけになっている
薄情かもしれないけど、これ以上深く関われば、トキの警告が無駄になる

手遅れ、ではない
まだ、自分の中にしまっておける


「聞きたいことはそれだけでいいか?
今度は俺の番だ
お前は何者だ?カベルネ
いや、衣川ミナト」


『っ、どこで、その名前を知った?』


まずいなぁ
あたしがバレるのはいいけど、それを利用されたりしたら
ここで過ごすことができなくなるかもしれない


「お前が倒れる直前、スコッチのことを知っていたと言ったな、それに」


あ、これ完全に聞き取られてたやつだ
なんで自分にあの時の記憶あるのかなぁ
なかったら躱せたかもしれないのに
ほとんど知ってるこの人を騙せるほど、あたしが嘘が上手いとは思えない


『あなたが、これなのは知ってる
あと、他に三人くらいいる
もちろん教えたりしないよ?
僕はどっちの味方でもないから』


ドアを叩く真似をすれば、彼は予想してたのかあまり驚かない
3人の方には少し反応したけど
3人、あれ?4人だっけ
どっかの映画で数人出てきたからまぁ良いだろ
今すでに潜入してるのかは知らないけど、FBIから調べられるとは思わないし

あー面倒くさくなってきた
ていうか、ミナトのことはどこまで知られてるんだろ
この世界に情報はほとんどないと思うんだけどな


「衣川ミナトが一般人である、というのは本当のことか?」

『?本当だよ、明美さんと仲が良いってだけで拉致られて
気付いたら組織の一員
その後のことは貴方なら調べ尽くしたんじゃない?』


え、なんでそこでため息?
というか本当に貴方はどこまで知ってるんですか
口調戻して、声も戻したのに触れてこないし
これ、もう自分から言っちゃって良いか


『答えたから、こっちにも1つ答えて
衣川ミナトのこと、何を知ってるの?』

「何、と言われてもな
カイとは性別が違うこと
本来高校生なのに学校に通っていない、かといって働いているわけでもないこと
そのくらいだな」


あーそれたぶん全部です
少なくとも、この世界では


『そこまで知られてるなら、もういいや
改めて、衣川ミナトです
カイもカベルネも全て女です
というか、カイが男だって公に、あたしは一回も言ってない気がするんですけどね
みんな、一人称が僕ってだけで男の子だと判断してさ』


最後は愚痴
だって本当にそうなんだよ
確かに男に見えるようにしてきたけど、男だとハッキリ言ったことはない
ない、はず


「なら、あのときは変装ではなかったんだな」


あの時、っていうのは夏祭りのことか
あれは楽しかった
ベルに浴衣着せてもらって、仕事のついでだけど花火も見られたし


「それで、俺のことを知っていると言ったが、それなら」

『FBIの証人保護なら受けませんよ?
僕はここでやることがある
約束したんだ、2人を守るって
そのために初めてやることも飲み込んで、銃も使えるようになって』


「だが、君は本来なら学生だ
そういうことは我々に任せて」


あーまた爆発しちゃう
どうにも最近のあたしは感情のコントロールが出来ない
今までは平気だったんだけど


『やめて!
貴方はあたしのことを一般人と言いました
その一般人がここまで上がるのにどんな覚悟をしなきゃいけなかったと思いますか⁈
人は殺したくない、そのために正確な射撃が出来ないと殺される
知らないでしょう!
あたしが死んだって誰も気づかないから
いつだって殺されることを考えなきゃだっ』


赤井さんの顔を見てられなくて手元に視線を落として叫ぶ
けど、途中で何かに塞がれて
目の前が真っ暗?
あぁ頭を抱えられてるのか

昂ぶっていたものが一気に冷める
でも、このまま抱えられていたら、混乱して何を言い出すかわからない

だから離して欲しくて暴れるけど
力は強くなるばかりで

「すまなかった
君の覚悟を知らずに踏み躙ろうとした」

これは、ダメだ
あたしを殺さないと、やってられない

以前なら大丈夫でも、気付いてしまった今では

あたし、僕はカイ
ミナトはここにはいない
ここにいるのはノックのライと組織のカベルネ

『…もう、いい
もう、やめろ、あなたはFBI、僕は犯罪組織の一員
これ以上、関わるな
貴方は守るべき人を守る
あとはこの組織を壊す
そのためにしか、いない
僕と関わる存在じゃないから』

ライが離れる
やっと分かってくれた
僕はイレギュラー
本来関わりのないもの
彼が守るのは僕じゃなくて宮野姉妹


「1つ、言っておくが、俺が守るべきと捉えているのは衣川ミナトだ」


『…は?』










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