□事故とコードネーム
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akai side


FBIに入って数年、俺はある組織へ潜入捜査することになった

まずはその組織への潜入方法を調べる
上層部から送られてきた情報と合わせ、1つの方法を見つけた

組織に所属している姉妹、宮野というらしいが、姉の方はほとんど一般人と変わらない生活を送っている
だが、妹の方は科学者の卵として重宝されている
俺の任務はこの組織を壊滅させるためにボスや本拠地を探ること
この組織では酒の名前のコードネームが与えられることが、幹部、ひいては中心への道らしい
この妹もコードネームを持っていることは分かっている

俺は姉の方に近づき、恋人となることで組織への道を開くことにした
付き合っていたジョディとも別れた

姉の周囲について調べると、ここ数ヶ月で交友を持つようになった2人の人間が出てきた
最初は何処かの諜報員かと考えた
しかし、調べるうちにまだ成人していない男女であることがわかり、さらに男の方は組織の一員だった
女の方は一般人のようだから、特に気にしないことにした

男はカイと呼ばれている
宮野姉妹とは仲は良いが、それ以上の関係ではない
ただ、コードネームを与えられていない者が監視もなしに妹の近くにいることが、どこか引っかかった

好機が訪れ、俺は姉の宮野明美に接触することができた
その時にカイにも出会えたのは幸運と言える

「諸星大と言います
大事になってしまったようで申し訳ない
私はこの通り無事ですし、こちらにも非はあります」

『来るのが遅かったか
女の明美じゃ手が足りないこともある
僕も手伝う
諸星大、僕はカイだ』


16.7才といったところか?
思わぬ幸運に口角が上がりそうになったが、ここで怪しまれるわけにはいかない


「カイくん、か
すまないが、よろしく頼む」

『…よろしくしなくて良い』

「またそう言うことを言う!カイはもう少し交友関係を広げるべきよ!」

一瞬怪しまれたのかとも思ったが、これが通常なのか
これは、難しい性格だな


『今回の場合、必要ではないと思うが?
明日また来る』

この少年が世話をしてくれるというなら好都合だ
怪我の具合から、入院期間は短いだろうから上手くやらないとな
そのまま出ていくかと思われたが、俺をまっすぐに見て俺に聞こえるかどうかの音量で一言呟いた


『諸星大、明美を利用するなよ』


ポーカーフェイスが崩れたのがわかった
一瞬で消したが、おそらく彼には気づかれた
カイはそれ以上何かを言うわけでもなく病室を出て行った
後ろを向く直前の彼の顔は少し笑っていた
良いものが見れたとでも言うように

俺のことが暴露ているのか?
単に親しいものを取られることへの牽制だったのか
その判別はつかないまま、入院期間は終わり、明美とこれからも会う約束が取り付けられた
そして、恋人と呼べる関係にもなった

カイはあれ以降何かを言ってくることはなかった
避けられているように感じることもあるほどだ

明美と妹の志保、カイの4人で食事をしたこともあるが、特にこれといった収穫もないまま日々が過ぎていた

明美に妹のことを相談されるまでは


「大くん、お願いがあるの
…志保とカイを助けて
あの2人がいつまでもあそこにいないで、外の世界を楽しめるようにしてあげたいの」

来た
これを待っていた

「…具体的に教えてくれないか」

明美の説明によると、2人はある組織に所属しているがそこは決して良い組織ではない
彼女は役に立たないためほとんど普通の生活を送れているが、妹は科学者として外の世界をほとんど知らずに研究させられている
カイは2人と関わったせいで組織に入れられた
何故か幹部の一部に気に入られているから殺されることはないと思うが、彼に人殺しなどさせたくない
2人を助けるために、俺に組織に入って欲しいということだった


俺は即答したい気持ちを抑え、少し考えさせて欲しいと返した
もちろん答えはイエスしかない
数日後には返答し、明美の手引きによって組織に入った

本部にもその旨を報告し、本格的に諜報員としての生活が始まった

得意の狙撃を活かし順調に地位を上げていき、ライ、というコードネームを手に入れた

同時期に金髪の俺より少し若い男もバーボンというコードネームを
カイはカベルネというコードネームを手に入れていた

カイの狙撃の腕は俺には劣るものの、向いている、としか思えないものだ
さらに剣道と柔道が出来るときた
一度、彼に請われて他流試合のようなものをやった時には危うく負けるところだった
その細い体のどこから力が出てくるのか、と思った
その頃よく組まされるようになっていたスコッチという男は負けたことがある、と言う

それほどの力があって、何故俺と同じ時期までコードネームがなかったのか
その答えは4人で組まされた時にわかった

スコッチはカイに銃に関することを教えた本人で、しばらくは2人で仕事をしていた
そこに俺とバーボンが加わり任務をこなすようになった
その日はバーボンが情報を集め、スコッチは誘導、最後の仕留めを俺とカベルネで行う
という作戦だった
結果から言えば作戦は成功し、対象は始末した


「カベルネ、貴方1人で仕留められましたよね?
何故頭を狙わないんです?
逃げられる可能性もあるじゃないですか!」


作戦終了後のことだ
スコッチに抑えられているバーボンほどではないが、俺も少し苛立っていた


『別にいつものことだ
僕が仕留めなくてもライかスコッチが殺る
失敗する確率はないからいいだろ』

「へぇ、随分と余裕なんですね
そんなだからいつまでも殺さずのカベルネ、なんて名前で呼ばれるんですよ?」


殺さずのカベルネ?
組織内での通り名、か
つまりカベルネはまだ人を殺した事がない


「っバーボン、言い過ぎだ!
カベルネは任務を失敗した事はないだろう!
何故それじゃダメなんだ」


『帰る
バーボン、年齢は貴方の方が上だけど、組織ではどうか
消されたくなければ考えて
確かに僕は人を殺した事はない
だけど、任務を失敗するつもりはない
そんな事はできないから』


カベルネはそのまま帰ってしまった
バーボンも彼がいなくなって拘束を解かれると足音荒く帰った

カベルネ
彼は任務を失敗した記録がなかったから不思議だったが、一度も殺した事がないなら、コードネームが与えられなかった理由になる
明美から守って欲しいと言われた内の1人
巻き込まれたと聞いているが、数ヶ月で黒に染まりきらずとも順応している
もし抜けさせるなら早めにしなければいけない
ただ、彼が組織に入った時から一緒にいるというスコッチ、彼を始めとする幹部の一部に懐いているようにも見える
カイについては本名が分からない事もあり、情報がない
彼がこの組織を拠り所とするならば、明美の願いを聞く事はできない

俺はFBIだ
巻き込まれた一般人は助けられるものなら助けたいが、任務の方が優先されるべきであり、俺はまだ諸星大であり続ける






to be continued....

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