□事故とコードネーム
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その日明美さんから電話がかかってきたのは、久しぶりにバイクで出掛けようと支度をしていた時だった



『もしも【ミナトちゃん!どうしよう!人を轢いちゃったの!】は?』


思わず携帯を落としそうになり、慌てて持ち直す


【ミナトちゃん、どうしよう】

『ちょっと、落ち着いて状況を話してください』


明美さんの話によると、車で長髪の男性を轢いてしまい、今は病院についてきたということだった


『(長髪の男性?
何か、また大事なことを忘れてるような)
とりあえず、彼が起きるまでそばにいて
目が覚めて大丈夫そうだったら、ちゃんと謝ればいいと思いますけど』


なんで彼女は年下のあたしにそんなことを聞くんだ
よほど慌てていたのか、他に頼れる人物が思い浮かばなかったか

…この場合両方か


【う、うん、そうね
私、病室に戻るわ
それで、あの、出来れば…】


『あたしも行ったほうがいいですか
こんなガキでも役に立つならすぐ行きます
あ、でもどこで見てるかわからないかカイが行きますね』

【ありがとう
じゃあカイによろしく言っておいてくれる?】


上手いな
カイが行ける環境をすぐ作ってくれる
流石、宮野博士の娘、ってことか
まあ盗聴されてればこの時点でミナトとカイが知り合いとバレるけど
そのくらいは大丈夫だろ


『ええ、すぐに彼に行くように言いますね』


病院名と部屋を聞き、電話を切る
それからライダースーツを脱ぎ、カイの服に着替える
これは明美さんが教えてくれたこと
2人を演じ分けるなら服は正反対にしたほうがいい、と

そのため、ミナトの時は年相応の明るい女の子
カイはちょっとチャラい感じの男

服でどこまで騙せるかわからないけど、今はまだ平気そうだから良しとする
性格だってほとんど笑わないカイと明るいミナトじゃ違いすぎる
本当はどちらかを完全変装しておきたかったけど、フルメイクでの変装は最近やっとできるようになったから間に合わなかった
ミナトは化粧で少し幼い感じになるようにしているけど…


着替えながら頭に入れた、家から病院までの道のりを思い出しながらバイクを走らせる


『(長髪の男性で1番に浮かんだのはジン
けど、彼女が轢くわけないし、第一そんなことしたら今頃明美さんは生きてない可能性がある
というかジンだったら明美さんもそう言うだろうな)長髪の男……あ、まさか!』

もう1人いた
なんで忘れていたのか
おそらく間違えではない答えを思いつき、バイクのスピードを上げる

会いたくないという気持ちもある
けど今の段階で僕のことを彼は知らない
なら明美さんを落ち着かせることが先
それから関わりを持たなければいい

病院に着き、受付で病室を言うとすぐに案内してもらえた
明美さんが話を通しておいてくれたらしい
ノックをして部屋に入る


「あ、カイ!
ごめんなさい、いきなり頼んだりして
来てくれてありがとう」


部屋は個室
ベッドには思った通りの人が起き上がっていた
あの赤井秀一が入院服を来て真っ白なベットにいるとか
“あたし”だったら笑いが堪えられなかったかもしれない


『いや、暇だったから構わない
この人が?』

「諸星大と言います
大事になってしまったようで申し訳ない
私はこの通り無事ですし、こちらにも非はあります」

2人はすでに和解したらしく、明美さんが入院費と入院中の面倒を見ることで落ち着いたらしい


『来るのが遅かったか
女の明美じゃ手が足りないこともある
僕も手伝う
諸星大、僕はカイだ』


本当はやりたくないけど!
この流れで、明美さん1人に任せるのは人としてどうかと思うし


「カイくん、か
すまないが、よろしく頼む」


一瞬、本当に一瞬だけど彼の目が怪しく光った
これは、僕の情報も掴まれてる、のか?
それを確かめる術が思いつかないから、今は放って置くしかないか


『…よろしくしなくて良い』

というかしたくない


「またそう言うことを言う!カイはもう少し交友関係を広げるべきよ!」

『今回の場合、必要ではないと思うが?
明日また来る
諸星大、明美を利用するなよ』

最後の言葉は彼にのみ聞こえるように言う
案の定、ポーカーフェイスは少し崩れていた
それも先ほどと同じく一瞬だったが

このくらいの釘刺しは許してほしい
介入はしない
彼と過ごす時間は彼女にとって幸せなものなはず
それを邪魔はしないし、できない


「あ、送るわ
諸星さん、少し席を外しますね」

『別に送らなくて良い
じゃあまた明日』


これ以上ここにいるとカイが崩れそう
それくらい憧れのキャラの存在は、あたしにとって大きいらしい

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