dream
□strawberry
1ページ/1ページ
「次は絶対、オマエを護るから」
そんな言葉を遠巻きに、聴いてた。
聞き耳立ててたわけじゃない。
ただ普通に、聞こえてしまっただけ。
その声の主が、私の彼氏ってだけ。
自信があったわけじゃないけど、今までルキアちゃんや織姫に嫉妬したことはない。
でも、さっきの言葉だけがどうしてか、耳に残る。
以前の私なら惚れ直してた。私の好きになった男はこうでなくちゃと、誇らしくなったと思う。
ドロリとした嫌な感情が私を埋め尽くす。
余裕がなくなってた私はその場を離れる時に音を立ててしまったことなんて気にすることもできなくて、ただひたすら、家まで走った。
彼が最近元気がないのは気づいてた。
佐渡は休みだし一護と織姫は怪我してて微妙な空気漂わせてるし…。一護が死神代行をしていることと関係があるんだろう。そう思ってた。
私は幽霊とか見えないし不思議な力もないから一護から話を聞いた時、俄かには信じられなかったけど、一護の目があまりに真剣だったから、真実なんだと理解することができた。
私を心配させないために包み隠さず話してくれた一護はきっと今回のことも後で話してくれるし、何より部外者の私が口を出していい問題ではないだろう、と。
何も言わず見守ることにしてたんだ。
別に守られたいわけじゃない。
あの言葉が引き金だっただけで織姫に嫉妬とかそんなんじゃない。
一護もそんな意味で言ったんじゃないこともわかってる。
ただ
いつまでたっても蚊帳の外の私は、その言葉に至るまでの何もかもを知らない。
なんで元気なかったのか、なんで元気になったのか。
恋人なのに知らないことばかりで、恋人が大変な時に何も出来ないっていうのは寂しいものなんだなって、唇を噛んだ。
なんて私の感情は安っちいのか。
子供みたいで恥ずかしくて誰にも言いたくない感情。
「ーーーーーーー!!!!!!!」
自分の部屋に入った私は堪えてたものを吐き出すように泣いた。思ってたよりもずっと子供みたいな泣き方をしてしまってる自分が嫌で、声を少しでも抑えようと布団を被ってただひたすらに泣いてた。
ここが自分の家でよかった。こんな姿誰にも見せたくない。
ーーーコンコン
ノックする音がして、自分の泣いている声が止まる。
「んー?おかあさん?入っていいよー」
笑っちゃうぐらい鼻声で間抜けな声を出してしまった。流石に顔を見られたくはなくて、布団を被って返事を待つ。
布団を被ってるから見えないけど、返事もしないで部屋に入ってきたお母さんはどうやら私の寝てるベッドの足元に座ったみたいだった。
「どしたの?なんか怒ってる?」
いつもなら返事してから入るお母さんが黙ってこうして入ってくるなんて、と、被っていた布団を剥いで起き上がった。
「…よぉ」
どうやらお母さんだと思っていた人は、今1番、顔を見られたくない相手だった。
「なんで…」
「なんでってそりゃ、おまえに会いに」
私があの場所にいたこと、気がついたんだ。
そうでもしなきゃ、うちになんかこなかったはずだから。
追いかけてくれたんだ、この人は。
「…ありがとう。」
「別に俺は、…おまえに礼言われるようなことできてねーよ。」
辛そうに顔を歪ませる君の顔が愛しい。
ごめんね、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだよ。
せっかく元気になったのに私のせいで台無しだ。
「ごめん…ごめんね…。」
「なんで、謝るんだよ。俺のほうこそ、ごめ、」
言いかけた言葉を飲み込むように、一護の唇と私のそれを押し付けて、消化した。
すぐに唇を放して笑いかける。
「もういいんだ。いいんだ、一護。」
不思議だ。
一護がしてくれた些細なことで、さっきまで泣いていた理由なんてどうでもよくなってた。
謝ってほしいわけじゃないし一護はそのままでいてほしい。堂々としてていいんだよ、って心の中で呟いた。
フワッと、一護の匂いが強くなって、久しぶりの感触に身を委ねる。
一護が抱きしめてくれるこの時が好きだ。何も出来ない私を、許してくれているようで。
ただ一護を好きなだけでいいんだと言ってくれているみたいで。
「…好きだ」
「うん。わたしも」
好きだよ。
ギュッ、と、私を抱きしめる力が強くなる。
愛おしい人。
強い人。
きっとまた、ルキアちゃんを助けに行くみたいに、彼は何処かへ行ってしまう。
帰ってきた時ちゃんと教えてね。
今度は何があったのか。何をしてきたのか。
そして、またこうして抱きしめてほしい。
(そろそろ、行かねえと…大事な話があるみてえだから。
うん、行ってらっしゃい。)
2016.05.08
ブラウザバック推奨