短い旅(短編)

□素直じゃない二人
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とある街にひっそりとあるカフェ

そのカフェの常連名無しさんは、今日も足を運ぶ

そこで美味しいコーヒーを飲み、本を読むのが大好きだった

洋風なドアを開けるといつもの店員が出迎えてくれる





はずだった

ジェイド「いらっしゃいませ」

「・・・は?」

いつもの店員が馴染みのある陰険眼鏡に変わっていた

だがいつもの軍服ではなくここの店員服になっており、長い髪も緩く結んでいた

何故?

意味がわからずに呆けていると、向こうから話しかけてきた

ジェイド「おや、名無しさんじゃありませんか」

「あ、ああ・・・

じゃなくて!何でいるんだ!?」

驚きを隠せないこちらとは反対に軽い調子で答えるジェイド

ジェイド「それがですね、偶然ここを通ったら店長と思わしき方に

『あ!ちょっと君!いい顔立ちしてるね!

ちょっとここ少し見ててくれないかな!?細かいことは控え室に一覧あるから、よろしくね!』

と、とてつもない勢いで店内に入れられ、無理矢理任されましてね」

「・・・確かにそういう人だがそのまま引き受けたお前もすごいよ」

ここの店長は普段いい人なのだが、たまにおかしな行動をすると良い意味でも悪い意味でも評判だ

なんだかよくわからないことになってたらしいので、深くは聞かないことにした

ジェイド「そんなことより、お客様」

「むっ」

急に店員らしい口調になったので少し戸惑う

ジェイド「1名様ですね、あちらの席へどうぞ」

「お、おう・・・」

知り合いに普通に接客されるのは何故か少し気まずいなと思った名無しさん

案内された席に座りいつものを頼もうとしたら、突然ジェイドが

ジェイド「・・・喧騒を離れ、至福のひとときをご提供いたしますよ」

と、微笑んだ

「っ!」

営業スマイルに少し見惚れたことは本人には内緒だ

ジェイドは満足気に裏に行ってしまい、今は自分一人だ

落ち着け俺と心の中で呟いていると、その元凶の店員が戻ってきた

ジェイド「どうぞ、コーヒーです」

「え、俺注文してないぞ・・・?」

先程から驚くことが多すぎて考えるより聞こうという結論に至った

ジェイド「任された時に言われまして

随分前からここに来ているようですね」

「ああ、ここの雰囲気が好きなんだ

言っちゃアレだが人も少ないし落ち着いてて良いな〜って

こういうところで彼氏とデートとかが夢だったり、なんてな」

と、苦笑する

ジェイド「なるほど

では、今度私とまた来ましょうか」

「おう!

・・・え、いや何故この流れでそうなる!?」

今の話で何故その返しが来るのか全く理解ができなかった

ジェイド「夢なのでしょう?

それくらいなら私でも叶えられるかと」

「いやいや!ちゃんと聞いてたか!?

彼氏と!ウィズボーイフレンド!

・・・ジェイドだって俺なんかとそういう関係になるの、嫌だろ?」

肯定されるのはわかっていても、語尾が小さくなってしまった

その問いにジェイドは間をおいて答えた

ジェイド「・・・鈍いですねぇ・・・

嫌なら、こんなこと言いませんよ」

答えを聞いて名無しさんは目を見開き頬を染めた

だが何かに気づいたのかあっ、と呟き

「・・・はははっ!

お前からかうなよ〜、危うく騙されるところだったぜ」

全部からかうための冗談かよと思い、気を抜いて言った

その様子を見たジェイドは少し寂しそうな顔をしたが、すぐ消し去った

ジェイド「いや〜バレてしまいましたか

・・・おっと、貴女はそろそろ仕事の時間でしたね」

「もうそんな時間か

今日はジェイドにからかわれただけになってしまったなぁ・・・」

ジェイド「まるで私が悪いような言い方ですねぇ」

心当たりが全くないという素振りを見せる

「その通りだっての

んじゃ、会計よろしく」

コーヒーを飲み干し席を立って会計を済ませる

ジェイド「では、またのお越しをお待ちしております」

「ああ、今日の時間を無駄にした幼馴染みを連れてな」

ジェイド「!

・・・やれやれ、素直じゃありませんね」

それは私もか、と心の中で付け足す

「あ、そうそうジェイド

その服結構似合ってるぜ、かっこいいよ

じゃあな」

そう言い残し、店を出ていった

ジェイド「・・・そういうことを素で言えるところが、貴女の嫌なところですよ」

そう言うジェイドは、満更でもなさそうな様子だった





(名無しさんが帰ったすぐ後

店長「ごめんね〜!急に任せちゃって!・・・なんか嬉しそうだけど、どうかしたのかい?」

ジェイド「いえ、常連さんがいらしただけでしたよ」

店長「あの子また来てくれたのか〜、悪いことしちゃったかな」

ジェイド「それくらいでどうこう言う人ではないですよ」

店長「もしかして知り合い?だからそんな嬉しそうなのか〜」

ジェイド「・・・さあ、どうでしょう(嬉しそう、ねぇ)」)



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