短い旅(短編)

□エイプリルフールの贈り物
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とある街の宿

一人に一つずつ与えられた部屋の中で、朝早く名無しさんは本を読んでいた

物語のクライマックスに差し掛かった時、扉の向こうに人の気配を感じた

その直後にコンコン、と朝だからか控えめな音が鳴った

どうぞ、と返事をすると開いた扉から意外な人物が出てきた

ジェイド「おや、珍しく起きていましたか」

「起きてるって思ったからこんな時間に来たんでしょ?」

ジェイド「いえいえ偶然ですよ、偶然」

絶対嘘だ、と思った名無しさんだったが、早く本の続きを読みたかったので無駄な会話はやめた

「で、何の用?」

ジェイド「この前借りた本を返そうかと、なかなか興味深かったですよ」

ジェイドはそう言いながら後ろにやっていた手を前に出す

その手には前に名無しさんが貸した恋愛小説が握られていた

「あぁ、本当に読んだんだ

ジェイドが恋愛小説って・・・」

本を受け取りながら名無しさんは想像したジェイドの姿に笑った

ジェイド「私もたまにはこういうのも読みたくなるものですよ

こういうものにはいろいろと学ばされますから」

「ジェイドが恋愛小説から何学ぶってのさ」

ジェイド「いろいろと、ですよ」

どこか意味を含んだ笑みを浮かべると、何かに気付いたのかいつもの笑みに戻った

ジェイド「名無しさん、頭にゴミがついていますよ」

「えっホント?どこ?」

名無しさんは手を頭の方にやって頭の上を漁るが見つけられなかった

その様子を楽しむようにジェイドは言った

ジェイド「ここですよ」

ジェイドは名無しさんの頭に手をやり、ゴミをとったのかそのままポケットに手を入れた

「とれた?ありがと」

ジェイド「いえいえ、では失礼しました」

ジェイドはまるで今すぐ出ていきたいと言わんばかりの早さで出ていった

それが、4月1日の午前のことだった





「っ・・・あれっ寝てた!?

ん・・・?何これ」

ジェイドが出ていった後、本の続きを読んでいたはずがいつの間にか寝ていたらしい

起きて頭を思い切り上げた時、頭の上から何か落ちた音がした

「これは・・・花・・・髪飾り?」

落ちたものは桃色のバラの髪飾りだった

名無しさんは何故これが自分の頭についていたのかわからなかったが、数時間にジェイドが頭に触ったのを思い出した

だがあのジェイドがこんな事をする理由が思いつかなかった

時計を見ると12時をとうに過ぎていた

この時間ならジェイドは部屋にいるだろうと思い、そこに向かった



ジェイドの部屋の前につき、扉を叩くと返事があった

扉を開けるといつもの軍服のジェイドがいた

ジェイド「おや、貴女でしたか

どうかしましたか?」

「よくもまぁ平然と・・・

これ、どういうことか聞きに来たの」

そう言いながら髪飾りを見せた

ジェイド「・・・今日は何の日か知ってますか?」

「今日?4月1日・・・エイプリルフール!」

ジェイド「そういうことです」

だとしてもあのジェイドが自分にプレゼントを用意すること自体が謎だった

利益がないことは基本的にしないジェイドが、だ

「でも、何で髪飾りくれたの?」

ジェイド「・・・街を歩いていたら、貴女に似合いそうな髪飾りがあったので」

「・・・・・・え、それだけ?」

もっと他に企んでると思っていた名無しさんは驚きながら言った

ジェイド「それだけ、です」

「え、もっとこう、この髪飾りには嫌がらせの仕掛けがあるとかじゃないの?」

ジェイド「酷い言われようですね・・・普通に贈り物をしてはいけないんですか?」

「そうは言ってないけど、なんか意外だなぁって」

名無しさんはただ自分に似合う髪飾りをプレゼントしてくれただけと知って、嬉しく思った

それと同時に何故こんな遠まわしに渡してきたのかもわかってしまった

「普通に渡すの照れくさかっただけ?」

ジェイド「ごほん!・・・」

(あぁ図星なのね)

これ以上掘り下げるのは気の毒だと思い、話題を変えるため手に持っていた髪飾りをつけた

「どう?似合う?」

ジェイドに近付いて笑顔で言う名無しさんを見たジェイドは

ジェイド「・・・えぇ、とても」

そう言いながら顔を覆うように眼鏡を直した





ジェイド(実はこれ、貴女から借りた恋愛小説から学んだことです)

(それちゃんと活かされてるの?)



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