夢への扉

□貴方の涙は見たくなくて
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セトside

俺がシンタローさんのことを
好きだと気づいたのは
つい最近のことだった。いつの間にか

彼のことを目で追っていて。
彼と話しているととても楽しくて。
彼が笑うと頬の熱が高まって。

あ、俺この人が好きなんだなって
思って。意識し出したら
なんだかこっ恥ずかしくなって。
シンタローさんのこともっともっと
知りたいって思うようになった。

そして、彼のこと見てるうちに
気づいてしまった。彼が抱える
深い闇に。深い悲しみに。

俺も思い出してしまった。
シンタローさんのこと
俺は前から知っていることを。
死んでしまった姉ちゃんが
よく話していたんだった。

『シンタローって子と
友達になったんだ!
すっごくいい子なんだよ!』
『なんていうかこう、
目付きが悪くて、無愛想なの。』

全然、いい人そうじゃないけど。
俺とカノとキドは同時に、しかも
全く同じ台詞を発した。
すると姉ちゃんは頬を膨らませ

『ホントにいい子なんだよ?
優しくてね〜なんか、ヒーローみたいなんだよ‼格好いいんだからぁ!!』

無愛想なのに優しいのかと
その時、疑問に思ったんだっけ。

そして毎日のように
シンタローさんの話をし続け、
キドとカノは飽きていたっていうか
嫉妬していたというか。

それに反して俺は、シンタローさん
に興味をもって姉ちゃんの話に
食い入っていた。それはかなり。
自分なりにシンタローさんの
顔を思い浮かべて、楽しんでいた。
まだ、見たこともない彼に
姉ちゃんがヒーローだと言う彼に
俺は淡い憧れを抱いて
いたのかもしれない。

そして、年月が流れ、
姉ちゃんが高校にあがって
巡ってきた夏。姉ちゃんは
死んでしまった。
俺たちはひどく悲しんだ。特にカノ。
カノは重度のシスコンだったから。

キサラギさんの話だと、
シンタローさんが引きこもり出した
のは、姉ちゃんが死んだ日から。

なんとなく分かってしまった。
彼の時に見せる寂しそうな顔の意味。

そんな時だった。
彼がシンタローさんが泣いている。
声は出さずただ、綺麗な涙を
ポロポロとこぼしていた。
俺は、ドアの影から彼をみた。
酷く悲しそうな顔。
ふと、掠れた小さな声が聞こえてきた

「ごめ…ん。ごめん…アヤノ…。」

ひたすら、ごめんと繰り返していた。
こぼれ落ちる涙を拭う事もせずに。
ここまで姉ちゃんの死は彼を
追い詰めてしまったのか。
彼が悪いわけではないのに。

シンタローさんを助けたい。

そう思ったと同時に俺は
駆け出して彼を抱きしめていた。
突然与えられた体温に彼は
驚いたようで。涙で潤んだ瞳を
見開いていた。

「シンタローさん、泣かないで。」
口から出たのはシンプルな言葉で。

「もう、いいから。
貴方は何も悪くないから。」

シンタローさんは見られていたことに
焦ったのか、俺の腕のなかで
軽くもがきはじめた。

「せ、セト!おれなら、大丈夫だから
なんでもないから。離して…っ!?」

そんなシンタローさんをさらに強く、離さんとばかりに抱きしめた。

「嘘つきっすね…シンタローさん。
全然、大丈夫じゃないくせに。」

この人は嘘が下手な人だ。
すぐ顔に出る。可愛い人。

「っ…!セト?」

「シンタローさん。
もっと俺を頼ってよ。
俺じゃ頼りないっすか?
俺じゃ駄目っすか?
アヤノ姉ちゃんのこと
自分のせいだって思ってるんすよね?
それは違うっすよ。シンタローさん。
貴方のせいなんかじゃない。
…だから泣かないで?シンタローさん
貴方の泣き顔見たくないっす。」

これは俺の素直な気持ち。
嘘偽りの無い、本当のキモチ。

「えっ…それってどういう…?」

「シンタローさん。俺ね、
貴方が好きっす。どうしようもなく」

一度彼を抱きしめていた手を解き、
彼の目をしっかり見つめる。
彼はすごく困惑しているようだった。
だけど、彼の両頬は
赤く、紅く、染まっていた。

「あっ…えと。その…セトには
もっといい人がいるって…!
オレなんかじゃ勿体ないって!」

「俺は貴方がいいんす。」「…うぅ」

そう伝えるともじもじし出す
シンタローさん。すると、
シンタローさんは俺のツナギの
袖口をキュッとつかんでくる。

「駄目だ…オレとじゃオマエは
幸せになれない。オレは最低なヤツだ
お前の姉ちゃんを傷つけた。
助けてあげられなかった。
全部、全部オレのせいなんだ。
オレがいるから、みんなが幸せに
なれないだ。オレがっ…!おれが!」

ひっこんでいた涙がまた溢れ出した。
あぁ、姉ちゃんの言っていた通りだ
優しすぎる。そして、なんて
脆い人なんだろう。

俺は徐に彼の唇に自分の唇を重ねた。
触れあわせるだけ。だけどそれは
世間一般でいうキスというもので。

「えぁ…セト、なん…で?」

「大好きだから。貴方じゃなきゃ
駄目だから。そんなこと言わないで
俺のそばにいてくれませんか?」

そのとたん、シンタローさんは
涙腺が決壊したかのように
たくさんの涙を流し始めた。

「うぁ…せと、せとっ…!
おれ…おれっ…!好きだよ…!!
せとがすきだっ…!」

嬉しかった。まさかこんな展開
想像していなかった。
まさか、シンタローさんも
俺のこと好いていてくれたなんて。

「ねぇ、シンタローさん。
俺と付き合ってくれるっすか?」

「っはい…!」

その時のシンタローさんの笑顔は
いままでのどの笑顔より綺麗だった。

シンタローさん。俺、貴方のこと
ゼッタイ守るっすから。

END
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