*novel/◆A*
□もう一度、はじめから
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光溢れる夜の街並みが窓の外を流れていく。華金、なんて言葉はもう廃れて久しいのかもしれないが、やはり金曜の夜は街の雰囲気が特別華やいでいるように感じた。
愛車を駆りながら、御幸はひとつ息を吐く。ハンドルを握る手がにわかに汗ばんだ。青道を卒業して十年、今日は野球部のOB会だ。プロ野球選手になった御幸は参加の都合をつけるのが難しく、なんと今回が初参加だった。
──今夜、会えるかな。
ただひとりを思い浮かべて、御幸は目を細める。
あの頃は若かった。なんてお決まりの文句で過去に出来るくらいなら、きっと最初からこの気持ちを抱くことはなかった。
歳月を重ねた今だからこそ余計に、御幸はそう思う。
けれどやっぱり若かったのは事実で、降って湧いた不安にかかりきりだった御幸が気付いたときにはもう、遅かった。
すぐ隣にいたのに。心身とも、確かに近付いていたのに。
愚かな自分が選択を誤ったあの日、彼との関係は振り出しに戻るどころか『お前って脚だけは速いよな』と揶揄ったあの頃よりもっともっと、遠いところに離れてしまった。
いつだってグラウンドを一陣の風になって駆けていた彼は、そのまま。
御幸の隣から、いなくなってしまった。