愛されGirl
□20.デートA
1ページ/5ページ
平日の水族館はあまり人がおらず、有名な場所であるものの閑散としていた。
しかしそれは凛と壮五にとっては好都合で、薄暗い水族館の中をぴったりと寄り添って歩いていた。
水槽のトンネルの中を歩く二人の顔に水の青が反射する。
「壮五君見て、サメだよ」
「本当だ、大きいな…」
「あんな小さい魚と一緒にいて大丈夫なのかな」
「ちゃんとエサをあげていれば他の魚を食べないとか?」
「あ、確かに」
人が多い時は途中で立ち止まったりすれば迷惑になりそうだが、人がまばらな為、二人はトンネルの中に佇んで自由に泳ぐ魚たちを見上げた。
凛は水槽に触れると小さく微笑む。手から水槽の冷たさが伝わってくる。
「私、初めてだな。こうやって、男の子とデートするのって」
「…そうなんだ?」
「うん。小学校卒業したらすぐにアメリカに行ったし、青春時代は全て仕事に費やしたって感じだったし」
「そっか…」
水槽を見上げる凛の横顔を見ながら、壮五は意外だ、と思っていた。
"DIARY"での凛はその歳にしてはとても大人びて見えたし、この容姿なら引く手数多だったのではないか。そう思っていたからだ。
凛は壮五の顔をチラッと見て、その思いを読み取ったのか苦笑する。
「意外だ、とか思ってるんでしょう」
「えっ」
「分かるよ、壮五君の顔がそう言ってた」
「ご、ごめん」
「ふふっ、いいよ別に」
凛はまた水槽を見上げた。
「でも…、言い寄られたりしなかった?」
「まぁ…降板した後は、そういう事はあったけど。でも私がうぶ過ぎてみんなすぐ去っていったよ」
「そ、そうなんだ」
壮五が反応に困って少し笑うと、凛が壮五を見上げる。その表情はとても嬉しそうだ。
「……私の事、ちゃんと見てくれたの、壮五君が初めてだよ」
「…っ、そっか」
「うん」
嬉しそうに自分を見上げる彼女を、壮五は抱き寄せたくてたまらなくなる。
繋いでいない方の手が凛の方へ伸びかけた時、ピンポーンと館内放送が流れ、壮五は手を引っ込めた。
『この後ショースペースにおいて、イルカショーを行います。皆さま是非お越しくださいませ』
放送が終わると、壮五と凛は顔を見合わせる。
「イルカショーだって。凛さん、行く?」
「うん、行きたい!」
「じゃあ、行こうか」
壮五は凛の手を引いてイルカショーへと向かった。