愛されGirl
□8.引っ越し
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大和は本当に凛が寮に住む件の説得を成功させた。
本気に捉えていなかっただけに、『次の休み、引っ越しな』と大和からラビチャを受けた凛は驚きでケータイを落としそうになるのだった。
慌てて大和に電話をかけると、2コールで出る。
『何?』
「何、じゃない!あのさ、本気?」
『本気だけど。それより荷物まとめてあるか?』
「冗談だと思ってたからそんな事してないよっ」
『はぁ?まとめとけって言ったろー。まあ仕方ない、3日後オフだろ?』
「3日後?…うん、そうだけど」
『じゃあ手空いてる奴連れて凛の家行くから、出来るだけ引っ越し準備進めておけよ』
「えっ、冗談で、」
『じゃ』
プー…プー…という音が聞こえ、凛は思わずケータイをソファーに投げつける。
「大和の馬鹿!」
「二階堂さんがどうかしたんですか」
「うわっ、いいい一織君っ」
「ケータイ投げるなんて、壊れたらどうするんですか」
呆れた顔の一織がいつの間にか事務室内にいて、凛は恥ずかしさに縮こまる。
「すみません…」
「はぁ…それで、二階堂さんがどうかしたんですか」
「あぁ…」
「引っ越しの件ですか」
「知ってたの!?」
「朝寮で二階堂さんに『3日後凛の引っ越しを手伝え』と言われましたからね。本当に寮に引っ越すんですか」
「いえ、あの…ご、ごめんなさい」
一織が迷惑がっている様に見えた凛は思わず謝るが、一織は困ったように笑う。
「どうして謝るんですか」
「ど、どうしてだろう」
「……可愛い人だな」
「えっ」
一織が言わない様な発言が聞えた様な気がした凛だったが、一織は咳払いをするといつもの真面目な表情に戻る。
「…いえ、なんでもありません。マネージャーはいますか?」
「紡はもうすぐ来ると思います、昨日大分根を詰めて仕事していたみたいで朝は遅かったんです」
「そうですか。それならレッスン室使わせてもらいます」
「分かりました」
一織は壁にかかっているレッスン室のカギを取ると、ふと凛を見る。
「そういえば、ですが」
「はい?」
「あなたが寮へ引っ越してくると聞いて、皆喜んでいましたよ」
「え…」
「それじゃあ」
一織はそそくさと事務室を出て行く。
凛はその後ろ姿を呆気にとられて見る。
「…一織君って、もしかしてツンデレなのかな」
顎に手を当てて凛は真剣に考えるのだった。