OffーSeason1

□〜真昼VS各務〜 【完結】
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卒業式近づくにつれ、一年生と二年生が合同で会議をする機会が多くなった。
清和双葉中学校の卒業式では、在校生が送り出しと称して催し物を行うのだが、その年々によって変わる催し物も、大半が附属の高等部へと繰り上がる卒業生にとっては、大して感慨深いものでもない。
それは、贈る側も同じだった。
真昼は、目の前にいる人物に気づかれないよう、深く溜め息をついた。
なぜか、追い出し会の委員に選ばれ、なぜか、特定の後輩達に懐かれはじめている。
お昼休みに押し掛けてきた彼女達が、目の前で繰り広げるモジモジクネクネも、真昼のイライラを増長させていた。

「なぁに?」

苛立ちを抑え、優しく促すと漸く一人が口を開いた。

「…あの…、中田先輩って、各務先輩と付き合ってるんですか?」
「は?」

青天の霹靂なんて、生きてて使うことはないだろうと思っていたが、真昼にとっては今がその時だった。
突然の雷鳴は、稲妻となって真昼の身体をぶち抜き、テレビの画面よろしく、そのままブラックアウトした。
真昼が何も答えられずにいたのを、後輩達はどう捉えたのか、妙にはしゃいで矢継ぎ早に質問を投げ掛けてきた。

「どっちから告白したんですか?」
(あり得ないし)
「各務先輩と、どんな話するんですか?」
(薔乃先輩のことしか、共通点ないし)
「各務先輩って、たまにエロ話とかして、ギャップがよくないですか?」
(それ、ギャップじゃなくてマジですから)

無邪気な後輩達が、笑顔で真昼を追い詰める。
目眩と共に、昼休みに食べた物が上がってきそうな感覚に襲われた。

「各務先輩って、格好いいですよね」

とどめの一撃だった。

(お嬢さん、奴の正体はゴー○ン魔ですよ)
「…ちょ、ちょっと、ごめん」

辛うじて胃の内容物を床に撒き散らすことは避けられたが、真昼の受けたダメージは大きかった。
後輩達と別れ、自席で突っ伏すと、そのまま地面にのめり込んで行くんじゃないかと思うほど、打ちのめされた。
自分が各務と付き合っているというデマも然る事ながら、あの各務が後輩の間で人気者だということが、受け入れ難い事実として身体が拒否している。

「中田さん」
「あ?」

頭を上げるのも億劫で、真昼は突っ伏したまま返事をした。
今度は、何なの?と辟易していた。

「さっきの後輩の話、本当? 各務と付き合っているの?」
「!」

慌てて頭を起こすと、知った顔が目の前に立っていた。

(出たっ! ゴシップ女!)

情報収集を怠らない女だが、目敏すぎる。

「な…何?」
「だから、付き合ってるの?」

彼女の態度は、後輩達のあれとは違っていた。真剣に真昼を見据えている。

「…さぁ、どうでしょう?」
「はぐらかさないで」

彼女の語気が強みを帯びる。
責められる筋合いのない真昼は、苛立ちからつい挑発的な言葉を発してしまった。

「…だとしたら、何なの?」

途端に彼女の顔がかっと赤くなり、踵を返すとどこかに行ってしまった。
付き合ってると肯定したとも取れる言葉。
真昼は、彼女の一瞬の変化を見逃さなかった。
彼女は情報収集に来たのではなく、事実確認のために来たのだ。

(もてまくりじゃあないですか、各務さん)

真昼は、衝撃を通り越して茫然自失となった。



「な……何? どうしたの、その顔」

放課後、真昼はもやもやを払拭するように、各務の教室へと向かった。
「ちょっと顔かして」と言うつもりだったのが、各務の顔を見た瞬間、出てきた言葉は別のものだった。
明らかに殴られた痕で、口端やら頬骨の辺りが紫に変色している。

「可愛がられたように見えるか?」
「……まぁ、言葉の捉え方によっては、見えるけど」
「何で俺が安住達に、可愛がられなきゃいけないんだよ」
「……喧嘩したの?」
「一方的に殴られたの」
「あぁ…ね。自業自得ってやつね」

各務は、何でだよと言いたげな目付きで、真昼のことを見下ろした。

「何か用?」
「……あ」

真昼は、各務の顔に釘付けになり、本題を忘れていた。

「そう。私と各務が、付き合ってることになってる」
「みたいだね」
「あり得ない」
「あり得ないね」
「何で? どこからそんな噂が立ってんの?」
「中田が、俺のことつけ回してたからだろ?」
「私が? いつ?」
「薔乃が学校に出てきた日」
「…先輩が学校に出てきた日? ………あぁっ! あれかっ! あれは、つけ回してたんじゃなくて、監視してたんだよっ」
「俺に言われても。この前のデマみたく、突き詰めていけばどっかに当たるんじゃないの? 因みに出所は、俺じゃないけどね」

各務は、興味がないのか、すたすたと廊下を歩いていく。
真昼も、興味はなかったが、訂正はしたかった。
ただ、頭がぶっ飛び過ぎて、訂正する相手と場所を間違えた。
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