Season3 【完結】

□冬の章七 冬薔薇(ふゆそうび)2
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「璃青!」

遊命が、少し離れた場所で、薔乃を探す璃青を呼んだ。

「薔乃ちゃん、見つかった」
「どこ!?」

駆け寄った璃青の額に、うっすらと汗が滲んでいる。
吐く息は、白い。

「藍ちゃんとこに居るって」
「は!? 何で?」
「ナンパしたって」
「ナンパぁ!? どういうこと? 藍ちゃんのこと、苦手なのに」
「俺に訊いても分かんねぇよ。本人に訊いてみたら?」

遊命が、携帯を差し出した。

「…いい。直接会って訊くよ。…何か…自暴自棄になってんのかなぁ…」

璃青は、薔乃の行動が理解できないのか、うろうろと落ち着きがない。

「分かった。じゃ、一旦、家に戻ろ」
「何で!?」
「何でって、自分達だけで、解決しようとするなよ。おまえ、薔乃ちゃんの親に何て言うつもり? そもそも、子供の言うことなんて、信用されんのか?」
「親になんて、言わなきゃいいじゃん!」
「じゃあ、藍ちゃんの家は教えない」
「───!」
「璃青、ちょっと落ち着けって」
「別に焦ってないよ」
「焦ってる。俺等が勝手に行動したって、親の心配が増えるだけだって。きちんとかーちゃんに話して、取り持ってもらえ」
「──何だよ、クソ遊命っ!」
「あー…、はいはい。行くぞ」
「バカ! チビ!」
「おまえの方がデカいくせに、キャンキャンうるせぇよ」
「兄貴面してっ! 藍ちゃんの家ぐらい教えてくれたっていいじゃん!」
「ダ〜メ」

璃青は文句を言いながらも、遊命の後を着いていった。
心のどこかで、遊命の言っていることが正しいと分かっていても、素直に「はい」とは言えなかった。

「姑息なことすんなって」
「……姑息の意味分かって使ってる?」
「卑怯とか、正々堂々としてない様だろ?」
「違う。その場しのぎ」
「当たってんじゃん。後で本当のこと聞いたら、かーちゃんショック受けるからきちんと言いな」
「マザコン!」
「はいはい。おまえ、そんな悠長に歩いてて平気なの?」
「───大嫌いっ!」
「っでっ!!」

璃青は、遊命の脚を蹴飛ばすと、一目散に自宅のマンションへと駆け出した。

「お母さん、このまま何も訊かずに、私を家から出して!」
「はぁ!? 帰ってくるなり何なの、あなたは。日本語おかしいし。薔乃ちゃん、見つかったの?」
「ただいまー」

時間差で戻ってきた遊命に、母親が訳も分からず声を掛けた。

「ちょっと、どうなってんの? 遊命」
「薔乃ちゃん、見つかった。こら、りぃ。何で言わないんだよ」
「見つかったの? 何で連れてこないの?」
「俺の先輩ん家に居るって」
「先輩って…」
「ナンパしたら、着いてきたって」
「ナンパ…、あ、でも、ご家族と住んでるのよね?」
「藍ちゃん? 独り暮らしだよ」
「あいちゃん…女の子なの?」
「男」

陽子が不安を表に出す。

「…そんな、女の子を連れ込むような子、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。節操ないけど、信用はできる人だから」
「どっちなのよ、遊命…」
「もう、行くよ!」

璃青が痺れを切らして、二人を遮った。

「待てって。そういう訳だから、今からりぃと行ってくる。で…」
「ダメよ! 子供達だけで、そんな所に行かせる訳にいかないじゃない。だったら、私も行きます」
「だぁぁ…。それじゃあ、余計ややこしくなるんだって」
「だって、間違いでもあったら、どうするの?」
「絶対ない。藍ちゃん、女の子に興味ないから」
「興味ないって…」
「あーもう、面倒臭いな。後で話すよ。ほら、りぃからも言え」

遊命が、イライラを募らせていた璃青に振った。

「お母さん…お願い。絶対に連れて帰るから」

への字に曲がった口から出た言葉は、意外に落ち着いていた。

「そんなとこ言ったって…」
「りぃに解決させてやんないと。薔乃ちゃん、大事な友達なんだろ? かーちゃんだって、薔乃ちゃんが家に来た時、喜んでたじゃん。やっと、友達らしい友達が出来たって」
「だから、心配なんじゃない」
「悪いようにはしない。な、りぃ」

遊命の問い掛けに、璃青が頷いた。

「だからって、はいそうですかって言う訳には、いかないの。だいたい、あなた停学中なのよ?」
「遊命君は、私が黙って行こうとしたのを止めたの。親を騙すなって。隠し事なんてしてないし、嘘もついてない。大事な子なの、行かせて」
「隠し事はしてるでしょ? あなたの停学と、薔乃ちゃんの家出、何か関係してるの?」
「……分かんない。してるかも知れない。薔乃の口から、本当のことが聞きたいの。全てが分かったら、お母さんにも話すよ。だから、行かせて」
「………」

真っ直ぐ訴える璃青に、陽子は二の句が告げなかった。

「あのさぁ、状況的に二人っきりにしとく方がまずくね?」
「そうだけど…」
「で、かーちゃんには、薔乃ちゃん家に連絡してほしいんだ。うちにいる体で」
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