Season3 【完結】

□冬の章五 冬隣2
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朝はどの家庭も忙しい。
田崎家も例外ではなく、二人の子供を時間内に送り出す為、母親の陽子が奮闘していた。
電話はそんなことお構いなしに、早く出ろと鳴り続ける。

「もう、こんな時間に、何の用なの!」

陽子が、バタバタと駆け寄り、受話器を取った。
よそ行きの声、作り笑顔から一転、見る見るうちに笑みが消えていく。
二言三言返事をすると、陽子は静かに受話器を置いた。
子供達は電話のことなど、意に介せず仕度をしていて、まるで別世界の出来事が、陽子の耳を通して起こっているようだった。

「璃青、ちょっとこっち来なさい」
「え〜、何? もう出なきゃいけないのに」
「その学校から、停学って言われたけど、どういうことなの?」

陽子が神妙な面持ちで尋ねた。

「…あ〜、そうきたか…」
「は?」
「いや、どうって言われても、私だって何のことやら」
「璃青!!」
「…はい」
「非常ベル鳴らして、窓ガラス割っておいて、何のことやらじゃないでしょ!? 何でそんなことしたの!」
「…まぁ…色々ありまして…」
「当たり前です! 何もなくて、窓ガラスは割りません。私は何があったか訊いてるんです!」
「…あー…、イライラして、発作的に?」
「あなたが、そんな発作持ちだなんて、初めて知りました。どうして本当のこと言わないの?」
「だから…本当にイライラしてたんだって」
「窓ガラス割っただけで、停学なんて、私学って厳しいんだな」

すっかり身仕度を整えた遊命が、のん気に茶々を入れた。

「いや、非常ベルも…」
「遊命は余計なこと言ってないで、さっさと学校へ行きなさいっ、もう! 璃青、こんな時期に停学なんて、どういうことか分かってる? 進学出来なくなったら、どうするの!?」
「……ん、まぁ、そうなったら、そうなった時だよね」
「うち来れば? 俺でも入れるんだし…」
「遊命っ!!」

陽子の怒りも虚しく、玄関先から、行ってきまーすと、間延びした返事が返ってきた。

「遊命君の高校かぁ…、可児さんもいるし、いいかも…」
「真面目に考えなさい」
「マジだよ」
「どうしても言えないの?」
「うん…」

陽子が大きな溜め息をついた。

「あなたたちぐらいの年齢になったら、親に言えないことや、秘密があったって不思議じゃないけど、大人の力が必要な時もあるでしょ?」
「うん。でも、言えな…」
「ほら、やっぱり。理由があるんじゃない!」
「引っかけかよ…。あのさ、この話は色んな人が絡んでて、明るみに出ない方がいいことなの」
「子供のやったことぐらい受け止めるわよ、親ですから。子供達だけで解決出来ないんじゃないの?」
「あ〜、…私が大人しく処分受けてれば、解決するかな?」
「一人で抱えきれるもんですか」

陽子は、はぐらかし続ける璃青に不服を露にした。

「とにかく、騒ぎ立てないのが一番なの。噂って、すぐ尾鰭が付きまくるじゃん」
「はいはい、もう知りません。とにかく、高校には行ってちょうだい」
「…うん…、そんな怒んないでよ」
「ガラス代金、あなたの貯金から出しますから」
「え…うぇ〰…?」
「何か文句でも?」

凄みを効かせて言い放った陽子に、璃青は小さく、ありませんと、呟いた。



──三年A組 田崎璃青
   右記の者、本日より一週間の停学に処す。
   平成二十年十一月十三日──


薔乃にかけた電話は、十回以上のコールで漸く繋がった。

『真昼……学校なの?』
「学校ですよ」
『怖くないの?』
「それより、腹が立つって感じです。妙な噂立てられてもと、思って来てみたら案の定」
『……?』
「田崎先輩が、停学処分になってて」
『……え?』
「おかしくないですか? 誰も昨日のことは話していないのに、当事者の話も聞かずに停学なんて」
『……各務……』
「…私も、そう思います。今、あいつら探してるんですけど見当たらなくて」
『真昼……危険なことは止めて。一人で会おうなんて、考えないで』
「…でも」
『お願い。真昼がまた、あんな目に遭ったら…。璃青ならこの結果も、きっと受け入れてくれると思う。全てを話すことが得策じゃないって。だから…』
「…薔乃先輩」
『璃青の気持ちも汲んであげて。彼女は彼女なりに、私達を傷つけないようにしてるんだよ』
「そう言えば、田崎先輩も、見当たらないんですよね…」
『家で大人しくしてるんじゃないかな? 璃青なら…』
「分かりました。薔乃先輩がそう言うなら、何もしないです」

真昼は食い気味に、薔乃の言葉を断ち切った。

『……うん。電話ありがとね、真昼』
「授業が始まるので、電話切りますね」
『……うん』

真昼は、釈然としないまま携帯を切った。
薔乃が思うのは、田崎璃青のことだけ。
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