Season3 【完結】

□冬の章四 冬隣1
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清和双葉(せいわそうよう)中学校は、中高一貫の私立校で、横浜では有名な女子校だったが、かつてのお嬢様学校は、少子化の煽りを受けて、二年前に女子校の歴史に幕を閉じ、共学への導入へと相成った。
男子生徒がいない、三年生の教室は、別の棟に設けられ、生徒からは『修道院』と、呼ばれていた。
中田真昼は、女子校さながらの『修道院』の空気が好きだった。
澄んだ水と泥が、綯い交ぜになっていて、静かなときは澄んだ水。騒がしい時は泥水のようだと思っていた。
泥水はやがて、二手に別れ、泥は沈み、澄んだ水が現れる。
中田真昼にとって、その澄んだ水の頂点にいるのが、文川薔乃だった。



放課後、真昼がいつものように別棟の教室へ行くと、薔乃と璃青が、昨日と何ら変わりのない、重い空気を纏いながら話し合っていた。
真昼に気づいた薔乃は、後で行くからと、真昼をこの場から離れさせ、先に美術室へ行くように告げた。
真昼は薔乃の言う通り、職員室で美術室の鍵を貰ったが、向かう足取りは重かった。

―この沸き上がる気持ちは、嫉妬だろうか?

誰にもぶつけることができない苛立たしさ。渦巻く不完全燃焼の感情。
薔乃の気持ちの比重が、自分より田崎璃青の方が重いことなど、端から分かっていたし、それを承知で近づいた。
一度寝たぐらいで彼氏(彼女)面するな―。
なんて、言葉が己れの身に降り掛かる。
らしくないと、真昼は思った。
特別教室棟の北棟は、人影もなく、ざわめく生徒達の声も、遠く僅かに聞こえるだけで、頭を冷やすには丁度よかった。
真昼は、薔乃が来るまでの間、心を落ち着かせようと、美術室の鍵を開けた。
薄暗い美術室。
一人で来たことはなかった。
重い足取りで教室に入った瞬間、耳に響く足音が聞こえ、背中に突然の衝撃を受けた。
身体が宙に浮き、教室の中へと、強制的に引き摺り込まれ、真昼には何が起きたのか分からず、声も出なかった。

「………!」

抗えない程の力が、真昼の身体にしがみついている。
真昼は、自由になる腕と脚を、滅茶苦茶に動かした。

「安住っ、腕押さえろ!」

聞き覚えのない、男の声が耳に入った。
真昼の腕は、あっという間に捉えられ、脚も動きを封じられると、床に転がるように落ちた。

「やっ…!」

唯一残された、抵抗の手段である声も、男の大きな手で塞がれ、奪われた。

「ハンカチでも、何でもいいから、詰めとけよ。あと、腕も縛り上げろ」
「分かってるよ」
「……っ!」
「あーあ、入口開けっ放しで、誰かに見つかったら、どうすんだよ?」

後から教室に入ってきた男が、ゆっくりと静かに教室の戸を閉めた。

「がっつき過ぎだって」

男は、口にハンカチを押し込められ、手首をベルトで括られ、頭上に固定された少女に、貪りつく男達を一瞥すると、興味なさ気に壁に凭れ掛かった。
真昼の脚の自由を奪った男は、既にスカートを捲り上げ、真昼の下着に手を掛けていた。

「各務は犯んないの?」
「後で、文川さんが来るんでしょ? 俺はそっちがいいな。中田は福嶋と安住にあげる」
「……! んんっ!」

真昼は何度も叫び、男達を退けようと、必死に身体を動かした。

――止めて! 薔乃先輩に何もしないで!

真昼の叫びも虚しく、もがけばもがくほど、服ははだけ、薄暗闇に白い肌が浮かび上がった。
安住は真昼の乳房を、鷲掴みにし、福嶋は両足を肩に抱え、陰部を擦り合わせていた。

「暴れんなよ、っつても無理か」
「んっ……、ふ…!」

福嶋は己れの先走りで、真昼の陰部を散々汚すと、挿入を試みた。
男達の荒い吐息が充満する中、各務は廊下に神経を傾け、遠ざかる足音、近づく足音、人の声を聞き分け、微笑んだ。

「おい、福嶋。おまえ、バカじゃねぇの? 中に出すなよ」
「こいつ濡れてねぇから、濡らしといてやったんだよ」
「余計なことすんな。おまえが下手なんだよ、変われ」
「何だよ、安住だって、中出しぐらいするだろ?」

傍観していた各務が、小さく舌打ちした。
コイツらバカだ。
些細なことで、いがみ合い、大声で話し、証拠を残す。
各務は、いざとなったら、二人を切り離す算段をしていた。

「真昼?」

電気が点いていないことを、不思議に思った薔乃は、闇に向かって呼び掛けた。

「いないの?」

手探りでスイッチを入れると、パチッと弾かれる音と共に室内は明るくなり、薔乃の目に入ってきたのは、見知らぬ二人の男達に組み敷かれる真昼の姿だった。
男達に嬲られながらも、しきりに首を振って、来るなと訴えていた。
薔乃は、真昼から視線を逸らすことが、できなかった。

「やっと来た、文川さん」

薔乃の後ろから、各務が声を掛けた。
各務は、目の前の蛮行など、気にかけることなく微笑んでいた。
その異常さに、薔乃の身はすくむ。
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