Season3 【完結】

□冬の章四 冬隣1
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「中田を置いて、逃げ出すなんてしないよね?」

各務は静かに戸を閉めると、その戸を背に、ゆっくりと薔乃に近づいた。
薔乃は逃げ出すことはおろか、その場から動くことすらできなかった。
各務が近づく度、頭の中で、危険信号が点滅する。逃げろと命令しているのに、射止められた小動物のように、狩人が捕らえに来るのを震えて待つしかなかった。

「震えてんの? 俺はあいつらみたいな、酷いことはしないんだけどな」
「…や、…て…」

追い詰めらた薔乃の背中を、冷たい壁が覆う。
各務の指が、薔乃の髪に触れ、愛しそうに撫でると、壁よりも冷たい嫌悪感が、薔乃の背中を走っていった。
各務は、薔乃の髪を梳き上げ、身体を密着させると、首に顔を寄せた。
熱い息が、薔乃の首筋に掛かる。
薔乃は、力の限り押し退けたが、華奢に見えた各務の身体はびくともしなかった。
各務は涼しい顔で、薔乃の背中に腕を回し、曲線に沿って、撫で下ろすと、スカートをたくし上げ、太股を撫でた。

「…やっ…!」

全身に鳥肌がたつ。
払い除けても、払い除けても、各務の手は離れることがなかった。強引な各務の手は、薔乃の下着の縁をなぞり始めた。

「薔乃って……、苛めたくなるよね…もっと汚したくなる…」

薔乃の嫌がる顔、怯える表情が各務を昂らせる。
薔乃の耳元で囁く各務の声が、吐く息と共に、途切れ途切れになる。
各務は、薔乃の下着の中に手を差し入れ、叢を分けると、中心へと指を滑り込ませた。

「……っ!」

薔乃は、ありったけの力で叩き、もがいたが、各務は止まらなかった。

「柔らか…薔乃、濡れてる…」

――止めて!

薔乃は、強く目を瞑ると、瞳に留まっていた涙が零れ落ちた。

――悦んでなんかいない! 受け入れてなんかいない!

薔乃は、激しく首を振った。
それでも、各務が指を動かす度、薔乃の柔らかな部分は、その指を捕らえ、じわりと滲み出た熱で、更に溶けていく。

「…や…」

このまま溺れていくかと思われた時、各務は身体に感じる微かな振動に気がついた。薔乃と各務に挟まれたカバンから、一定の間隔で機械音が流れていた。

「携帯…、田崎さんじゃない? 出なくていいの?」

何故か、薔乃から、各務の身体が離れた。

璃青、璃青、璃青!

薔乃は心で叫びながら、震える手で、カバンを開けようとした。

―友達を危険に晒したんだ。璃青なら大丈夫だと思った?

薔乃の脳裏に、不躾な男の言葉が過った。
あの時は、人の気も知らないでと、疎ましく思ったが、この状況は、璃青にとっても危険に違いない。真昼は既に被害者だ。これ以上、好きな人達を、危険な目に遭わすわけにはいかない。
男達が、大人しく帰してくれるはずもないと、身をもって知った。助けてくれる人は、誰もいない。
それでも、薔乃は、携帯を切った。
身体が離れた、僅かな隙をついて、各務を押し退けた。

「先輩、今のうちに逃げ…ぃやっ!」
「余計なことすんな。おまえこっち」

福嶋が、真昼を後ろから羽交い締めに、安住に向かってM字に脚が開くよう、膝を抱え上げた。

「……いやーっ!」
「…ま…真昼から離れて」
「何? 先輩、声震えてんじゃん」

安住が、真昼の蔭核を弄びながら、嘲笑う。

「…や…うっ…」

真昼の身体が、ビクンと痙攣した。

「早く…離れなさいっ!」
「おいおい、自分の置かれた状況、分かって言ってんのかよ」
「もう、面倒臭ぇ。この女、三人で輪姦しちゃお、各務」

安住と福嶋は、真昼を離すと、のそりと立ち上がり、獲物を捕らえる肉食獣の如く、薔乃に襲いかかろうとした。

「おい、ふざけんな」
「…止めて…!」

真昼が叫ぶのと同時に、各務が薔乃の前に立ちはだかり、男達の間で険悪な空気流れた。

「…おい、各務…」
「……!」

突如、空気を裂くような音が、校舎内を駆け巡った。
危険を報せる、断続的な音が、美術室にいる生徒達の不安感を煽る。誰もが身動き一つしなかった。

「…火事?…」
「どうせ、イタズラ……っ…!」
「……!」

緊迫した室内に、ガラスの割れる音が響き渡り、音と共に破片が床に散らばった。

「…田崎先輩…」

廊下側から離れた所にいた真昼が、いち早く璃青の姿を留めた。璃青は、窓枠を越え、床に散らばったガラス片を物ともせず、福嶋達を一瞥すると、真昼に近寄った。
福嶋と安住は、物言わぬ璃青の威圧感に、神経を昂らせながら、璃青の動向を目で追った。

「立てる?」

璃青は、男達を無視し、真昼の傍らに立つと、拘束された腕を取り、ベルトをほどいた。真昼は、小さく頷いた。

「これ、君の?」

璃青は、安住の前にプランとベルトを差し出した。

「……」

安住は、警戒して、その場から動かなかった。

「取りに来て。いらないの?」
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